理不尽に立ち向かい、正義感を燃やして悪事を裁く。そんな主役がいる(とくに国内の)ドラマは人気がある。私はそれに今ひとつ馴染めないでいる。
本作の主役は違う。ダークヒロインとしてミステリアスに人間の本性と向き合う。タイで実際に起きた問題を基に、素性不明の転校生ナノが同級生や教師の悪事を暴く1話完結のヒューマンホラーだ。「笑ゥせぇるすまん」を彷彿とさせ、舞台となる学校はエピソードごとに異なる。

イラスト:kumiko yamaguchi
第1話、女子高の教師ウィンは生徒の集中力向上にヨガの導入を提案する。サンプル動画のモデルに立候補したナノは撮影に参加しながら、家族思いで教育熱心なウィンの正体を白日の下にさらす。
共学校が舞台の第2話では、魅力的なナノにバスケ部の3人組が夢中になる。ナノに嫉妬した仲良しのイティムとタウは、彼女を男子たちのパーティーへ誘い出す。ナノの取ったある行動が、同級生たちを破滅へ向かわせる。
第2話で印象的なシーンがある。生徒たちがメッセージアプリでナノについて噂するなか、流れる曲はフランスのバンド「ラ・ファム」の「La Femme Ressort」だ。「動きは繰り返され/それは頭にこびり付き/あなたが追い出そうとしてもそれは終わらない」という歌詞に合わせ、彼女は校庭で軽やかに踊っている。まるで「人間の強欲や悪事は繰り返され終わらないもの」と白けているようだ。
理不尽なことや不正は現実でたくさん起こっているが、正義感のある人はほとんどいない。多くを語らず、不気味な笑い声に不適な笑みを浮かべるナノ。悪意で人を裁く彼女の方がリアルに見える。
DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。
