綿菓子のようにふんわりした触れ心地、鮮やかな色柄の一点もの。播州織アーティスト、玉木新雌さんの作るショールは、性別・年齢・国籍を問わずファンを獲得し、地場産業だった播州織を世界15か国に展開するブランドにまで押し上げました。
新雌さんに会いに、兵庫県西脇市まで訪れました。「日本へそ公園」の近くにtamaki niime と書かれたおとぎ話に出てきそうなショップがあり、さらに山の方へ進むと実験場のようなLabにたどりつきます。「このあたり一帯は tamaki niime mura といって、tamaki niime の世界観を発信している拠点なんですよ」とスタッフが教えてくれます。
白い建物の外には山があり、川が流れ、田んぼが広がります。綿花も栽培され、羊やアルパカまで飼われており、懐かしいというよりも近未来的な時空にトリップしたような感覚に陥ります。福井出身の新雌さんが織物を作るための理想の場所を求め、西脇に来てから3回引っ越して落ち着いた場所が、ここでした。「美しい色を作っていきたいから、美しい景色を視界の中に入れていたい」とヤギやアルパカに餌をやりながら新雌さんは語ります。
繊維商社でパタンナーとして経験を積み、独立後、素材展を回っていた際、師匠となる播州織職人と出会って布の可能性に目覚めました。この出会いが、その後、西脇に移住するきっかけとなります。自分らしい生地を開発しようと試行錯誤を重ねて3年経った頃、縫えないくらい柔らかい布が織り上がり、カラフルなショールを開発して大成功します。現在は、ワンピース、パンツ、セーターなど、創るアイテムも増やしています。播州織の伝統的な技術と最新のテクノロジーを組み合わせ、原料生産から織、編み、染色、縫製、加工、販売まで一貫した工程を自社でおこなうというユニークなビジネスを展開しています。
世界で人気を博す理由は何でしょう? ブラジルから来た女性には、「あなたの服はイッセイ・ミヤケのにおいがする。フリーサイズで、雑にたたんで旅行にも持って行けて、色のバリエーションが豊富なところが」と指摘されたと新雌さんは教えてくれます。

新雌とは「新しい雌」という意味。男女雇用機会均等法が施行された頃に、自分が楽しいと思える仕事で、一生働いていきたい、新しい女性像を創っていきたい」という思いをこめて自身につけた名前とのこと。「お父さんは達雄でした。<雄>の付く名前はたくさんあるのに、<雌>がつく名前はなかったんですよね」。現代ではジェンダーを問わず働き方に対する考え方も変化しており、tamaki niime の取り組みに共感した若者たちが全国から西脇に移住してくるそうです。スタッフには女性が多いのですが、最近では男性の入社も増えており、「新雄さんの時代ですね」と新雌さんは笑います。共同経営者として縁の下で新雌さんを支えるパートナーの酒井義範さんもまた「新雄」さんとして存在感を発揮しています。

Labには一般の人にも開放されている社員食堂があり、オーガニックな料理を提供しています。飼い犬も当たり前のようにLabにいて、社員の子供たち、近隣の人々も折々の行事に巻き込み、コミュニティ全体の幸福を追求する努力もごく自然におこなわれています。
「tamaki niime mura」というスタッフのことばの意味を理解しました。近未来感を覚えた理由も。人と自然が調和しながら仕事や生活を営んでいくこと、その延長に、次の新しい風景が作られていくのでしょう。