2024年6月に一般公開・旅行商品化される「黒部宇奈月キャニオンルート」は、黒部川の電源開発の歴史をたどるツアーだ。特に難工事だった第三発電所(くろさん)の建設現場は、吉村昭さんの小説「高熱隧道ずいどう」にも描かれている。報道陣向けの事前ツアーに参加し、先人の偉業に思いをはせた。

 

 黒部峡谷鉄道の終点、欅平けやきだいらと黒部ダムを結ぶ18キロの物資輸送路。上部専用鉄道(トロッコ)やインクライン(ケーブルカー)を乗り継ぎ、小説の舞台となった「高熱隧道」などを通る電源開発ルートとして人気が高い。

吉村昭さんの小説「高熱隧道」。歴史を学ぶため、購入した

 富山県が長年、観光振興に欠かせないとして関西電力に全面開放を求めてきたことを受け、2018年10月、関電との間で協定が結ばれ、ルート開放に合意。2024年度から、現行の公募見学会の約5倍となる年間最大1万人を受け入れることになり、準備が進められている。

欅平駅のホームから見える黒部川第三発電所

 出発地の欅平駅に着くと、ホームから見下ろす位置に白い建物が見えた。黒部川第三発電所だ。1936(昭和11)年に着工され、40(同15)年に運転を始めた。上流の黒部ダムにあるのが「くろよん」こと黒部川第四発電所で、第三発電所はその一つ前に造られた施設となる。

欅平の下部と上部を結ぶ竪坑エレベーター

 竪坑たてこうエレベーターで標高800メートルの「上部軌道」まで上がり、専用の列車に乗り込んだ。客車は小さく、立ち上がるとヘルメットが天井にぶつかる。

竪坑エレベーター前のトンネル表面は、人の手で掘った跡が分かる

 同行のガイドによると、高熱地帯を通るため耐熱仕様になっている。けん引する機関車も、引火の危険を避けるため燃料を使わずバッテリーで動く。

上部軌道を走る専用列車は耐熱仕様だ

 十数分たっただろうか。「ちょっと臭いがしてきましたね」とガイドの声。確かに、硫黄の臭いを少し感じる。ここがキャニオンルートの見どころ

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