生きていれば誰でも理想像はあるだろう。しかし、思い描く姿を「演じよう」とすれば本来の自分を見失ってしまう可能性もある。

イラスト:kumiko yamaguchi
ロサンゼルス郊外を舞台にした本作は、アジア系の男女が車のトラブルをきっかけに怒りを募らせていく様子を、家父長制などの文化背景をまじえて描いたブラック・コメディ。
ホームセンターの駐車場で電気工のダニーは、実業家のエイミーにクラクションを派手に鳴らされる。一瞬で激昂した彼は、ボロボロのバンで彼女が運転する高級SUVを追いかける。これが発端となり、互いの生活にまで介入し、あの手この手で復讐し合う。
対照的な2人の怒りには理由がある。ダニーは仕事がうまくいかず投資に失敗。長男として韓国にいる両親を呼び寄せなければ、というプレッシャーを感じている。一方、エイミーは実業家として成功し夫と娘の3人で暮らしているが、大きな契約を目前に忙しく、自ら建てた豪邸で過ごす時間もない。
タイトルの「BEEF」とは、ヒップホップのスラング(俗語)で揉め事をさす。理想を追い求めるが故に起こった小競り合いはやがて、生きるのに必死で完璧な人間を「演じよう」としていたことを2人に気付かせる。
第1話のエンディングで、アメリカのバンド「フーバスタンク」の「The Reason」が流れる。「俺は完璧な人じゃない/でも学び続ける/昔の自分を変える/その理由は君なんだ」という皮肉的な歌詞だ。
DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。