「この世界に住みたい」。漫画や映画好きからしばしば聞かれるセリフだ。私は本作に出会い、初めて共感した。

 大学アメフトチームの監督テッド・ラッソが、突然イギリスのプロサッカーチーム監督に抜擢され、チームのために奮闘/苦悩する姿を描いたスポーツ・コメディ。

イラスト:kumiko yamaguchi

 テッドはプレミアリーグに所属する「AFCリッチモンド」の新監督に就任。経営陣と選手たち、記者やサポーターまでもがサッカー未経験の彼を歓迎しない。そんな評判を気にせず「BELIEVE(信じる)」をモットーに、テッドは独自のリーダーシップでチームをまとめる。

 陰謀を企むオーナーも高慢な花形選手も、実は誰もが心に問題を抱えていた。テッドは底なしに明るい前向きな性格と、アメリカンジョークにビスケットを添えた会話で、皆が元から持つ「いい人」を引き出す。特にオーナーのレベッカは、邪魔者だったはずの彼の魅力に一番引き込まれていく。

 シーズン1第7話、テッドはパニック障害の発作を起こす。チームがカラオケで盛り上がる中、レベッカだけが異変に気付き、そっといたわる。エンディング曲、イギリスのシンガー「セレステ」の「Strange」が2人の関係性の変化を表す。「不思議じゃない?/人はどうして変わるの?/見知らぬ他人から友人へ」

 「自分を、仲間を信じよう」と言うテッドと、それを信じたAFCリッチモンドの仲間たちが作り出す世界はあまりにも優しい。今すぐにでも、ロンドン郊外にあるあの架空の街へ飛んで行きたい。

DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。

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