《ギャラリーストーカー。画廊でつきまとう人たちのことだ。彼らの多くが中高年男性であり、ターゲットにされるのは美術大学を卒業したばかりの若い女性作家である》

まさかそんな怖い人たちがいるだなんて、信じられない。と驚きたかったが、残念ながら、知っていた。「画廊」を「劇場」に、「美術大学」を「芸術大学」に置き換えても、この文章は成立する。20代の頃、イベントカフェや劇場でアルバイトをし、30代になった現在、芸大の非常勤講師をしている身としては、もういい、とうんざりするほど、対応にあたってきた。ある知人は、住所を突き止められ、引っ越しまですることになった。男性である私も劇場からの帰り道に、駅で待ち伏せされたことがある。お客さま全員が神様ではない。時に悪魔も紛れ込んでいる。
すべての章で気分が落ち込むけれども、特に頭が痛くなったのは、《第5章 美術界の異常なジェンダーバランス》である。男性の作品ばかり好きな男性がいる。男性とばかり仲良くなり、仕事をしたがる男性もいる。結果的に、美大や芸大には女性の学生の方が多いにも関わらず、審査会やコンペティションでは不自然に男性が受賞しやすい傾向にあったり、仕事の機会に男女で明確な不均衡が生じたりする。芸大や美大で教員を男女半々で雇うだけでも状況はある程度改善するはずだが、道のりは遠いと言わざるを得ない。
《被害に遭った先輩作家たちからのアドバイス》など、被害報告だけではなく、対策も合わせて記載されている。本当は芸大や美大の授業で、必ずこの問題を取り扱うようにできればいいのだが、今はそうなっていない以上、自衛のためにも、現役の学生には特にお薦めしたい。相当な覚悟を必要とする読書になるので、ご注意を。