カターレ富山で9年間プレーした富山市出身のMF佐々木陽次が、現役生活にピリオドを打った。劇的な残留劇に貢献し大きな置き土産を残した彼の歩みを、インタビューで振り返る。周囲を生かす献身的なプレースタイルを支えていたのは、郷里のクラブと仲間、サポーターへの熱き思いだった。(聞き手・赤壁逸朗)

最終戦セレモニーを終えて観客に応える佐々木

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 佐々木は1992年生まれの33歳。新庄スポーツ少年団、富山北FC、FC東京U―18、東京学芸大を経て2015年にプロになり徳島へ。17年からカターレ富山でプレーし、在籍した9年間のリーグ戦出場試合数はクラブ歴代8位の164、得点数は同4位の25。パス&ムーブで攻撃にリズムを生み出す献身的なプレーが真骨頂だった。「特別な才能や身体能力があるわけじゃない。できることってなんだろうと考えた時にこうなった」と言う。

「奇跡の逆転残留」が置き土産

 最終戦後の引退スピーチで、近年ずっと抱えてきた苦しい胸の内を明かした。ベンチ外が続いても次の試合に向けて準備し、プロとしてあるべき姿を示し続ける。出番が巡ってこない悔しさを押し殺し、フォアザチームに徹する覚悟があった。「後悔なく、胸を張ってやり切ったと思える。それを誇りに思いたい」。この日、交代を告げられてピッチを退く際には、感情がこみ上げてユニフォームの裾で顔を覆った。ほとんどの観衆が、彼の境地とそこに至るまでの葛藤の大きさを初めて知った。

最終戦では佐々木のパスからPKを獲得して先取点につながった

 ピッチの内外でクラブへの献身を貫けた理由を尋ねると、「郷里に戻り、多くの人と接する中で、カターレでプレーするということが、自分だけの話じゃなくなった。みんなの思いを体現してあげたいと思うようになった」と話した。

 18~20年にもチームを指揮した安達亮監督は、佐々木のプレーヤーとしての長所を知る最大の理解者と言って差し支えない。「ボール保持を安定させるためには陽次が最適」との判断で、10月4日の第32節・藤枝戦で今季初先発に抜てき。佐々木は決勝点をアシストして10試合ぶりの勝利に導き、J2残留へのドラマがここから始まった。最終戦の秋田戦、自身と交代でピッチに入った18歳のMF亀田歩夢が残留を決めるゴールを決め、引退表明時に描いていた最高のフィナーレが正夢になった。

佐々木選手インタビュー

 ―引退を惜しむ声が数多く届いているのでは。

 「そう言ってもらえるのは、ありがたい。体も動くし、技術が衰えているわけでもない。しかし、サッカー人生を振り返ってみても自分はピッチに立てないことが多い選手だった。

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