共働き世帯の増加や核家族化を背景に、県内で病児・病後児保育のニーズが高まっている。「急病時も安心して子どもを預けられる」と保護者の支えになる一方、受け入れ施設では職員の人数や予算が足りず、予約を断るケースも。現場からは職場での子育て支援に対する意識改革や、行政の支援拡充を求める声が上がる。(富山大3年・松井美羽)
11月中旬の平日、午前10時。富山地方鉄道不二越駅にほど近い、富山市元町のビルの2階にある「病児・病後児保育室ラグーン」では、1歳の赤ちゃんから小学生までの7人が、保育士5人と思い思いに過ごしていた。折り紙で遊んだり、笑顔で保育士の膝に乗ったり。発熱やせきなどの症状があり、学校や保育園を欠席した子どもたちだ。
キャンセル待ちも
ラグーンは富山市初の小児科併設型の病児・病後児保育施設として、小児科医で施設長の高尾幹さんが2008年に開設した。1階に診察室、2階に保育室があり、預かる子どもの体調が急変してもすぐに診察できる。
料金は昼食、おやつを含めて1日2千円。県が1歳半の子どもがいる家庭に支給する電子ポイントを支払いに使用でき、富山市在住のひとり親家庭は市の補助で半額になる。

1日最大10人を受け入れ、利用前日の昼からインターネットで予約を受け付ける。満員でキャンセル待ちとなる日も多いという。
県子育て支援課によると、県内には25年度時点で37カ所の病児・病後児対応型保育施設がある。少子化が進む中、19年度31施設、23年度35施設と増加傾向にある。県は施設を新設する民間団体に運営費を補助したり、オンラインで施設の空き状況を確認できるようにしたりし、受け入れ体制の整備に取り組んできた。
96%が「仕事休めず困った経験ある」
働きながら育児をする親にとって、子どもの急な体調不良は悩みの種の一つだ。23年に県が行った調査では、仕事と育児の両立が難しいとしてフルタイム勤務をやめた人のうち、約半数が「子どもの病気などでたびたび休まざるを得ない」ことを理由に挙げた。
「人と人とのつながりを通して、育児がつらいものではなく楽しいものになる」。ラグーン施設長の高尾さんは、自身も県外で働きながら3人の息子を育てた経験からこう話す。我が子が病気になった時の大変さと心細さを実感したことが、施設を立ち上げるきっかけになったという。

ラグーンが3月に行った利用者アンケートでは、仕事を休めず困った経験があると答えた人が96・9%を占めた。「施設があり本当に助かった」「医師や専門家がそばにいることで安心して仕事に集中できた」といった切実な声が多く寄せられた。
職場のサポート必要
ラグーンの保育士で「病児保育専門士」の資格を持つ杉本淳子さんは、利用する保護者の育児相談に乗ることが多く、「安心して泣く人もいる」と話す。子どもを預かるだけでなく、孤立しがちな親の声に耳を傾け、一緒に考えることも、病児保育の役割だと考える。

一方、日々の業務の中で難しさを感じることもある。午前8時15分から子どもを受け入れるが、「会社に遅刻する」とさらに早い開所を求める人もいる。夜も仕事を切り上げられず、午後6時の閉所間際に急いで迎えに来る親も少なくない。
杉本さんは、各職場で子育て中の社員への理解を深め、勤務体系を柔軟にするなどのサポートが必要だと指摘。「働く親も会社も、互いに働きやすい社会になってほしい」と願う。
人手や資金の不足も課題だ。近年はたんの吸引や人工呼吸器など日常的に介助が必要な医療的ケア児(医ケア児)が増えており、医ケア児1人に対し、保育士複数人で対応することもあるという。
杉本さんは「どうしても人件費が必要。行政の支援があれば受け入れやすくなる」と話した。