県内を訪れるインバウンド(訪日客)の集客を図ろうと、富山市中心部の飲食店がサービス向上に力を入れている。言葉や生活習慣が異なる客に対し、どうすれば満足してもらえるか模索を続ける。同市が米紙ニューヨーク・タイムズで紹介され、今後さらに訪日客の増加が見込まれる中、県もメニューの英訳などの費用を助成し、「おもてなし力」アップを支援する。(富山大3年・松井美羽)

 「インバウンド対応に正解はない。外国人旅行者になったつもりで自店を見つめることが最も重要」。7月上旬、富山市のTOYAMAキラリにある「カフェ小馬キラリ店」。県が周辺の飲食店向けに開いたセミナーで、飲食店の情報サイトを運営するぐるなび(東京)の寺岡真吾さんが訪日客対応のポイントを説明した。

寺岡さん(左奥)の説明に耳を傾ける飲食店経営者ら=カフェ小馬キラリ店

 寺岡さんは看板やメニューの多言語化、SNS(交流サイト)で口コミを書いてもらうこつなど幅広く解説。「常連客とのバランスが大切」「店側の歓迎する気持ちと親切なサービスが、料理以上に外国人に喜ばれる」などと話した。この日は7組ほどの飲食店経営者が参加し、「ぜひ店で取り入れたい」と積極的な姿勢を見せる人が多かった。一方、QRコードを使ってウェブ上で口コミを広げる方法については「仕組みが分からない」などと戸惑う声も聞かれた。

 2024年の1年間に県内で宿泊した外国人は延べ25万370人で、23年から6・2%増えた。新型コロナ禍で一時は1万人余りまで減少したが、現在はコロナ前の約7割まで回復している。25年1月にはニューヨーク・タイムズが「2025年に行くべき52カ所」に富山市を選んだことで、訪日客は今後さらに増える可能性が高い。

9月1~3日に開かれたおわら風の盆。外国人も含め大勢の観光客が訪れた=富山市八尾町諏訪町

英語 無理に話さなくても

 訪日客を取り込もうと、富山市中心部の飲食店はさまざまなサービス向上策に努めている。同市西町のイタリア料理店「クオーレ」オーナーシェフの杉浦健一さんは、コロナ禍が始まった頃からメニューを英訳し、外国人も利用するSNSで発信を強化するなど、先手を打ってきたという。訪日客とのコミュニケーションについて「文化の違いは感じるが、こちらの価値観を押し付けるべきではない。ある程度の妥協も必要」とし、柔軟な姿勢の大切さを強調する。

ニューヨーク・タイムズの「2025年に行くべき52カ所」で紹介された富山市ガラス美術館

 ニューヨーク・タイムズに掲載された富山市ガラス美術館内にあるカフェ小馬キラリ店の山澤房子店長は「掲載直後の2月ごろから、特にアジア系の観光客がぐっと増えた」と実感を込める。英語のメニューや注意書きを用意しているが、先払いのルールを理解してもらうのが難しいこともあるという。ただ、無理に英語を話す必要はないとも感じており「日本語を使ってみたい外国人も案外多い。笑顔で、相手の目を見て話すよう心がけている」とほほ笑む。

店頭に置いた英語のメニューを紹介する山澤さん=カフェ小馬キラリ店

行政も支援

 県もこうした飲食店を支援し、観光促進につなげようと、25年度から「持続可能な観光地域づくり支援事業費補助金」を整備。富山市中心部の店を対象に、メニューや看板の英訳、アレルギーやベジタリアンに関する表記対応にかかる費用の一部を、1店舗あたり最大20万円負担する。

 25年度分は既に申し込みを締め切っており、県観光振興室の木沢翔太さんによると、4~8月に計9件の飲食店から申請があった。「要望に応じて来年度以降も続けたい」と話す。

 木沢さんは「外国人にとって、日本のマナーやルールが分からないのは普通のこと」と説明。トラブルを防ぐためには丁寧な説明が必要だとし「受け入れ体制を整えることで、店側の不安解消にもつなげたい」と期待する。

 北日本新聞社は2024年、創刊140周年に合わせて「北日本新聞学生記者クラブ」を発足させました。25年も引き続き行い、県内の大学生が地域課題を取材し、執筆する記事を随時掲載します。