多様性を尊重し、より良い組織風土をつくろうと、県内企業でDEI(多様性・公平性・包括性)の取り組みが広まっている。男性従業員の割合が多いものづくりの現場では、人手不足の解消や生産性向上につなげるため、女性活躍推進に力を入れる。実践する企業のトップや担当者に狙いと課題を聞いた。(県立大大学院1年・小野司)

 国の経済センサス(2021年)によると、県内の産業別従業者数は製造業が最多の13万1286人で全体の4分の1を占め、男女比は男性67・7%、女性32・2%となっている。

 金属加工業のシンコー(富山市馬瀬口・大山)は、従業員の幸福感と会社の成長の両立を目指すウェルビーイング経営の一環としてDEIに取り組む。

DEIの取り組みについて話す中川社長=富山市馬瀬口

 活動を始めた理由の一つが人材の確保だ。中川真太郎社長(47)は「製造業には3K(きつい・汚い・危険)のイメージがまだまだ根強く残っている。それを変えないと人が集まらない」と話す。

ロボットで女性支援

 同社は就業時間内に外部講師を招いたヨガ・ピラティスなどのプログラムを定期開催する。採用活動では、理系に限らず文系の女子学生もイベントブースに足を運びやすいよう、文系出身の女性社員が担当することもある。

 業務の中で起こる女性ならではの悩みにも柔軟に対応する。力が必要な溶接作業では、ロボットを導入。男女間にあった業務の差の解消や、効率性の向上に役立っている。

 機械加工を担当する村山真理子さん(39)は、「男性と比べて筋力が弱いため、ネジを緩めるのも大変だった」と振り返る。上司に相談すると、軽い力で作業できるよう、専用の工具を作ってくれたという。「上司が要望を吸い上げてくれるので、本当にありがたい」と話す。

自身専用の工具で作業する村山さん

 中川社長は「女性に優しい会社は男性にも、障害のある人にも、外国人にも優しい。社員の幸福度が上がることで、最終的には会社の成長につながっていく」と力を込める。

女性活躍へプロジェクト

 電子部品や生産装置、ソフトウエアを手がける立山科学グループ(富山市下番、水口昭一郎会長)は、DEIという言葉がまだ一般的でなかった約10年前から、女性活躍の推進に取り組んできた。

 各部署から女性社員を中心に集め、2017年に「女性活躍推進プロジェクト」を発足。それ以降も経営層を対象とした研修会のほか、女性社員が業務の中での課題を設定して解決策を考える活動などに取り組んできた。

 地道な活動が実を結び、同社の管理職に占める女性の割合は2020年度の1・4%から、5年で5.3%まで上昇。執行役員を務める篠原おりえさんは「トップ層や管理職の女性社員への見方が変わってきた。『やってみよう』と背中を押すような声掛けをするようになった」と、組織風土の変化に手応えを語る。

「社内の雰囲気がすこしずつ変わってきた」と語る篠原さん(左)と川尻さん=富山市下番

社員の意思統一が課題

 一方、製品ごとに工場が分かれる大規模な企業ならではの障壁もあるという。同社は国内に7社、海外に3社のグループ会社を抱えており、取締役の川尻浩之さんは「それぞれの工場ごとに独自の文化や雰囲気があるため、グループ全体で同じ意識にそろえることが難しい」と課題を挙げた。全社的な取り組み推進に向け、「まずは社員を同じ意識に持っていく活動をしなければならない」と語った。

 北日本新聞社は2024年、創刊140周年に合わせて「北日本新聞学生記者クラブ」を発足させました。25年も引き続き行い、県内の大学生が地域課題を取材し、執筆する記事を随時掲載します。