私の知人が大麻を所持した容疑で捕まったとき、世間では非難囂々(ごうごう)だった。二度と仕事に復帰出来ないだろうと予想したし、実際に今でも復帰していない。大麻取締法は2024年、更に厳しくなったが、アルコールやニコチンやカフェインが合法であることを疑うひとは少ない。私は、いまも紅茶を飲みながらこの書評を書いている。カフェインで脳がだんだんと冴えていくのがわかる。仕事の際にコーヒーを飲むのが習慣になっているひとも決して少なくないはずだ。カフェインの依存性であると言われれば、甘んじて、認めざるを得ない。
『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』は、アルコール依存の患者として当事者会に参加した経験の豊富な文学研究者である横道誠と、依存性を専門とする精神科医である松本俊彦の、画期的な対談集である。当事者性の高い具体的なエピソードが多く、依存性とはなにかを奥深いところまで理解できる。何より、患者側と医者側がお互いに腹を割って話した本というのは、非常に珍しい。

例えば、日大アメフト部の大麻の報道で心を痛め、こんなことで、未来ある学生の人生を滅ぼしてしまうのかと当時、モヤモヤとした身としては、霧の晴れる思いがした。実名で顔写真付きで大々的に報道することは、必ずしも、当人に薬物をやめさせることに有効ではないからだ。
あなたはどこか、依存性のことを、他人事のように感じてはいないだろうか。アルコールやニコチンやカフェインは、ごく当たり前に浸透している。どれともこれまで縁がなかった、というひとはあまりいないだろう。依存性になる可能性は、意外と誰にでもある。問題は依存性との付き合い方、距離の置き方で、それらはあくまでも日常を楽しく過ごすためにある。あなたの人生の中にある、依存性のことをいまいちど考えてみるために、この本はある。
あやと・ゆうき 1991年生まれ。南砺市出身。劇作家・演出家・キュイ主宰。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。