予期せぬ妊娠をした女性が、危険な孤立出産に追い詰められるのを防ぐには、どうすればいいか―。2019年から、病院だけに身元を明かして出産する「内密出産」を導入する熊本市の慈恵病院には、全国各地から相談が寄せられる。内密出産した女性は既に30人を超えた。

 支援の在り方を考えようと、病院のスタッフは昨年、「匿名出産」を法制化しているフランスを訪れ、記者も同行した。匿名出産は誰にも名前を明かさず出産し、子どもを養子に預ける制度だ。フランスでは年500人程度が利用するという。

 妊娠、出産、中絶に必要な費用がかからず、性や生殖に関することを自分で決める「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」が尊重されるフランス。「女性に、母親になることを強制する法律はない」。匿名出産の法整備を担った元最高裁判事はそう強調した。

 翻って、性被害や若年などさまざまな事情があるにもかかわらず、予期せぬ妊娠を「自己責任」と断じる風潮がある日本。「母になること」、「子を産み育てること」を女性に押しつける社会の姿が浮かび上がる。(共同通信=石原聡美、江浪有紀)

 ▽望まぬタイミング

 「育てることは難しく、妊娠は望んだタイミングではなかった」。30代後半で匿名出産し、現在40代の女性=パリ市=が、慈恵病院のスタッフと面会した。過去を振り返る女性の様子は、とても落ち着いていた。

 女性には2人の子どもがいて、10歳以上年上のパートナーには、ほかに家庭があった。気付いた時には既に妊娠6カ月を過ぎていた。病院で助産師から「自分で育てることを望まない場合は、匿名出産がある」と説明を受けた後、ソーシャルワーカーの支援を受けながら、パートナーとも話し合い、子どもを養子縁組に託すと決めた。

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