南砺市利賀地域の土地を掘ってランドアートを制作する人がいます。高岡市の建築家、吉田甫(はじめ)さんです。吉田さんは土地を自ら借り、建物の設計や内装デザインなどの仕事の合間に創作に励んでいます。なぜ吉田さんはランドアートを造るのでしょう。根掘り葉掘り聞きました。(情報は取材時の内容です)

—深くて大きい作品ですね。どうして掘ったランドアートを手掛けたのですか。
深さは1・5mぐらい、全長は約20m、地面から出ている部分の高さは2・5mぐらいです。
そもそも兵庫で、穴を掘って建築的な構造物を入れた作品を造ったことがあって。2作目なんですよ。造るプロセスは一緒。大きめに掘削して、穴として残す部分のフレームを入れて、フレーム外の部分は土を埋め戻すんです。
—建築家の技術を生かしているんですね。
土の力は強いので、フレームを入れないと、きれいな穴にはならないんですよ。重機を使えるプロや大工の力を借りていますが、内部の壁は自分で塗っています。
—どうして自らランドアートを造るのですか?
仕事で高岡からパリに行った時、世界に向けて何かを造らないといけないと思ったんです。普段のクライアントワークに加えて、自分の手でより過激に表現することで世界と勝負したくなりました。
利賀には、芸術が根付く素地と経済原理と離れているような文化、美しい自然があります。普段の仕事から視点を変えてみたくなりました。
建築家は、場所の特性を読み解きます。この土地は山に向かい、近くには川が流れる。命を育む象徴を表現できると思い、山に向かっていく蛇をイメージして造りました。作品名は「蛇の淑女」です。

—利賀へ通って創作するのは大変だったのでは。
30日ぐらい通いましたね。朝早く出発し、利賀で作業し、夕方に帰って夜に仕事をする日々を送りました(笑)。2023年の夏に完成しました。
大変でしたけど、今しかできない建築の一つかもしれない。今後の仕事につながっていくと思うんです。
—「蛇の淑女」のそばに、もう1作を制作中ですね。
次作の地権者は現在埼玉にお住まい。埼玉へお願いしに行きました(笑)。また造りたくなって…。パリで働いた経験があるんですが、昔の同僚に認めてもらえるものを手掛けていきたいです。
1986年高岡市生まれ。高岡高校卒業後、大阪大に進み、同大大学院工学研究科建築工学専攻卒。2011年からパリの建築事務所に勤め、パリ中央郵便局の改修などに携わった。16年、大阪で自身の設計事務所「HAJIME YOSHIDA ARCHITECTURE」を設立。19年、高岡市守山町35西繊ビル401に事務所を移転した。
https://hya.boy.jp/
南砺市利賀村上百瀬(県利賀芸術公園の隣接地)に常設
※足元に注意する、先端が細くなっている手前の赤の階段から降りるなどの、看板に掲げられた注意事項を守れば中に入ることができる
撮影:さいとう写真事務所