燃料費の高騰や物流・運送業の運転手不足が続く中、高齢者ら買い物が困難な「買い物弱者」を支える移動販売車や買い物バスの運営が難しくなっている。富山県のまとめでは、県内の事業者数は2020年度の44から24年度は37に減少した。お年寄りにとって憩いの場にもなる中、持続可能な運営に向けて努力する事業者を訪ね、経営の工夫や思いを聞いた。(富山大人文学部3年・山本明日佳)

バナナ、牛乳、チョコレート、菓子パン、らっきょう、漬物…。8月6日、朝日町泊新のケアハウス「みんなの家」を訪れると、移動販売車のスタッフが大量の食料が入った段ボールを車から運び出し、手際よくテーブルに並べていた。たったの数分で、施設の一室はスーパーに様変わりした。
「オープンでーす!」。スタッフの元気なかけ声とともにドアが開くと、お年寄りが続々と“入店”してきた。長い列をつくり、商品を買い物かごに入れる。事前に欲しいものを注文し、商品の取り置きをお願いしている人もいた。

移動販売車を運営しているのは、朝日町シルバー人材センター。2013年に町の委託事業として始まった。保冷車と軽ライトバンの2台で週3回、スーパーが近くにないケアハウスや山間部の過疎地域を回る。
草野富久子さん(90)は、入居してからずっと利用している。今回はフルーツやヨーグルト、菓子など2千円分を買った。「施設の食事ではお菓子が出ないので、たまに欲しくなる。バスで買い物に行くのは大変なので、移動販売はありがたい」と話す。
おしゃべりも目的
この日は、過疎化が進む笹川地区も回った。移動販売車が目的地に到着すると、朝日町商工会が作ったご当地ソング「まめなけ!あさひ」が大音量で流れ出した。開店の合図だ。スタッフが机の上に商品を並べているうちに利用者が集まってきて、おしゃべりしながら楽しそうに買い物をしていた。

6、7年前から利用する折谷正志さん(93)は車の免許を返納し、現在は電動カートを使用している。「最寄りのスーパーまで50分かかるので、助かっている」と話す。
移動販売は地域の憩いの場にもなっている。竹内清江さん(89)は、玄関先で近所の友達2人と世間話で盛り上がっていた。「欲しいものがなくても、友達に会いたいから顔を出さなきゃと思う」と笑う。
スタッフも利用者の顔や名前を覚えており、「元気にしてた?」などと近況を尋ね、親しくしている様子が多く見られた。

採算性の確保課題
買い物サービスは、高齢化でニーズが高まる一方、運営の課題は多い。県経営支援課によると、14年度から右肩上がりだった事業者数は20年度の44をピークに減少し始め、24年度は37まで減った。担当者は背景に燃料費の高騰や運転手不足を挙げ、「赤字経営が続いて事業をやめる人がいるなど、採算性の確保が課題となっている」と説明する。

運営費切り詰める
そんな中、事業者はあの手この手で持続可能な運営方法を模索している。朝日町シルバー人材センターは近年の燃料費高騰を受け、年間の運営コストが19年度から23年度までに約2割上がった。対策として、24年度から利用手数料を購入金額の2%から4%に引き上げた。
事務局長の寺崎昭彦さんは「1人暮らしの人が多く、普段利用する人がいつもの時間に来なかったら、スタッフが様子を見に行く。高齢者の見守り機能もあり、何とか維持したい」と力を込める。
氷見市の上庄谷地域協議会は、中山間地域で暮らす住民の足となるNPOバスを1日5本運行している。買い物バスとしての役割も担い、地域のスーパーや病院などを回る。
同協議会の佐藤文敬さん(46)は、燃料費の高騰に加え、運転手の確保が課題だと言い「本数を増やして利便性を上げたいが、お金が確保できないため難しい」と明かす。運営費のうち6割は補助金、4割は同協議会が負担している。賃金はアルバイトほどの金額だとし「いろんなものを切り詰めてなるべくお金をかけない方法で運営している。これから先どこまでできるのか難しい」と漏らす。
住民の負担を増やさないため、年会費2千円の引き上げは考えておらず、補助金の割合を増やしてもらえるよう自治体などに働きかけているという。

国の調査では、15年度に買い物サービスを展開する事業者のうち約7割が赤字経営となり、総務省は17年に自治体などに支援強化を要請した。
県は以前、新たにサービスを始める事業者への補助金を設けていたが、3年ほど申請がない年が続いたことを理由に21年度に廃止した。担当者は、運営費用を個別に助成するのは難しいとし「事業者の一覧を県民に公開するなど、PRや周知の面で支援していきたい」と話した。
記者メモ
私の親は福祉関係の仕事をしている。幼い頃からよく話を聞いていたこともあり、高齢者の生活に興味があった。過疎地域に暮らす高齢者の買い物事情を知りたいと考え、移動販売をテーマに選んだ。

山間部を訪れて真っ先に感じたのは「不便さ」だった。周辺にはスーパーはおろか商店も存在しない。気軽に買い物に行ける環境ではなかった。
移動販売を利用したお年寄りに話を聞くと、口をそろえて「便利」「ありがたい」と答えた。事業を継続する上で採算性の確保という課題はあるが、過疎地域の現状を目の当たりにし、こうしたサービスは「買い物弱者」と呼ばれる人々の生活を支えるために必要不可欠だと感じた。実際に現地へ行き、住民から話を聞くことができたからこそ、維持していかなければならないという思いを強くした。
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