劇作家・演出家のタニノクロウが故郷の富山に滞在し、市民とともに演劇作品をつくりあげる「オール富山」プロジェクト。その第3弾「ニューマドンナ」(1月25〜28日、オーバード・ホール中ホール)は、これまでの「ダークマスター」「笑顔の砦」のようにリメイクではなく、新作となる。「オール富山」への信頼の厚さの証明だ。新作に込めた思いを聞いた。(聞き手・田尻秀幸、撮影・竹田泰子)

——稽古の手応えはどうですか?

 これからどんどん変わっていくと思うんですけど、俳優もスタッフも、すごくモチベーションが高い。こっくりさんみたいなもので、みんなの思いで何かしら不思議な力が生まれていますね。モチベーションが高いと、必ずいいものはできます。富山の人たちには感謝しかないですね。

 

——「オール富山」ということで、今回もメインキャスト以外の出演者や、舞台美術スタッフを一般公募した。タニノさんと一緒に舞台をやって演劇に目覚める人もいる。

 そこがオーバード・ホールの取り組みの面白いところ。誰でも参加できるし、経験関係ないし。これまでの「ダークマスター2019 TOYAMA」や「笑顔の砦’20帰郷」は、どこの世界に見せても全く恥ずかしくない、素晴らしい作品です。目指すは富山県総劇団化ですね(笑)。

 「オール富山」という形で3回やってきて、興味を持ってくれる人がどんどん増えています。富山の人はやることが一つ一つ丁寧だし、演技も美術も丁寧さが研ぎ澄まされている。実験的な取り組みやアート、新しいものに積極的に参加したり、見たりする欲求を他の場所よりも感じます。それはすごく大きな希望なんじゃないかな。

——タニノさんの作品は直接的にメッセージを打ち出していなくても、鑑賞後に明るい心地にさせてもらえるものが多い。

 

 人間って変わりたい、変えたいと意識的にも無意識的にも思っている。前に進んでるって思いたいんですよ。今回も希望を感じてもらえる舞台にしたい。幕が降りた後、未来への光があった方が作品としては好きです。僕の作品中で人が死んだことはないはずです。なんか書きたくないんですよ。

——未来といえば、演劇における人間と生成AIの関わり合いについてどう考えていますか。タニノさんは既に色々試しているのでは。

 来年パリで上演する作品はAIをテーマにした作品なんです。富山でもやった「ダークマスター」をリメイクするんですよ。AIを人間の敵みたいに思っている人が結構いますが、そうじゃないと思っています。人間の身勝手さとか、日和見的な部分とか、自堕落な部分に、ちゃんと寄り添ってくれる仏のような存在にAIがなるんじゃないか。10年後にAIにものすごい感謝される作品を作ろうかなと(笑)。「君が一番よく分かってくれた」って。

 

——新しいですね(笑)。以前タニノさんをインタビューした時、「パンクであり続けたい」とおっしゃっていました。その気持ちは今も?

 もちろん変わりません。何するか分からないという態度は、ちゃんと持っていたい。何をしでかすか分からない危うさは失いたくない。もちろん演劇はいろんな人が関わるし、信頼の上で成り立つもの。だから予定調和になりそうになるんだけど。でも、モノを作るならパンクでいないといけない。誰も見たことないものを見せたいですから。

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