劇作家・演出家のタニノクロウが故郷の富山に滞在し、市民とともに演劇作品をつくりあげる「オール富山」プロジェクト。その第3弾「ニューマドンナ」(1月25〜28日、オーバード・ホール中ホール)は、これまでの「ダークマスター」「笑顔の砦」のようにリメイクではなく、新作となる。「オール富山」への信頼の厚さの証明だ。新作に込めた思いを聞いた。(聞き手・田尻秀幸、撮影・竹田泰子)

——最近の物価高は演劇に影響しているんですか。

 チケットが高騰していますね。知恵を絞らないといけないでしょう。例えば、舞台セットのリサイクルもやった方がいい。

 

 ただ物価高だけが演劇界を直撃しているわけじゃない。コロナで「密」を嫌う人が増えて、気軽に劇場に行けなくなった。趣味の4番や5番目に観劇があった人が来なくなった気がします。年に2回くらい何かしら演劇を見ていたような人たちです。もちろんコアのお客さんは変わらず残っているんですが、それだけだと成り立たない。熱烈なファンを大切にしつつ、これまで以上に演劇に関心を持ってもらわないといけない。

——そういった逆風の中、新作「ニューマドンナ」を富山で上演します。ママとチーママが慕われているスナックと、ライブ配信サービスで生きる女性が暮らすアパートという二つの空間が舞台となる女性の群像劇だそうですね。

 女性中心の人情ドラマはこれまで書いたことがなかった。女性が軸の作品はありましたけど、どちらかというとパフォーマンス寄りのもの。会話劇では初めてです。だから挑戦してみたかった。ただ女性という存在に焦点を当てたわけではありません。普通の人間の面白さを描いたつもりです。作品を動かすのは、リアルのコミュニケーションがあるスナックと、ワンクリックで人格を変えてしまえるネットの世界の対比です。

 

 まあ、このテーマで描きたいものがあったということもありますが、それ以上に劇場にいろんな世代の人たちに来てもらいたかった。10代からお年寄りまで、みんなです。お年寄りならスナックに親しみが持てるだろうし、そこに40代に刺さる懐かしいJーPOPが流れていたりする。一方で、10代の若者はオンラインで生活する女性に共感するかもしれない。そうやっていろんな世代をつなぐ仕掛けを考えました。

 演劇は古臭いって思われているかもしれないけど、面白い表現ができると知ってもらいたかった。今回めちゃくちゃ難易度の高い演出をやるんですよ。実現できたら、演劇ってまだまだチャレンジできるって思ってもらえるかもしれない。そんな期待を込めています。

——難易度が高い演出とは。

 ワクワク、ドキドキしたいんです。映像も音響も照明もハイレベルなことをやっています。Vチューバーも登場させる。これまでの舞台上では見たことがないであろう複雑な表現をやります。この「オール富山」のチームならできると信じています。演劇の専門家ではなくて、普通の人たちだからこそ使える武器がたくさんある。

AUBADE HALL Produce タニノクロウ×オール富山 3rd stage
『ニューマドンナ』

1月25、26日は午後7時、27日は同1時、同6時、28日は同1時開演。
チケットは全席指定で一般4,000円、U25は2,500円(未就学児は入場できない)。アスネットカウンターやチケットぴあなどで取り扱う。問い合わせは富山市民文化事業団、電話076(445)5610。

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