フォトグラファー・nando株式会社 代表取締役
大木 賢(おおき けん)さん

1994年富山県生まれ。2017年金沢大学在学中に大木賢写真事務所を設立し、フリーランスフォトグラファーとして活動。19年から南砺市井波地域に拠点を移す。23年3月nando株式会社を設立。広告・雑誌撮影のほか、個人の日常風景も撮影。写真技術を活用したCGI(Computer Generated Imagery)制作や、XR(VR/AR)開発にも携わる。

 近年、新店舗の開業など若い世代の挑戦者が集まり、より一層のにぎわいが感じられる南砺市井波地域。そんな井波に先駆けて拠点を構え、地域の魅力ある風景を届ける若きフォトグラファー、大木賢さんにお話を聞きました。


ー大木さんが撮影した富山の絶景は、数年前にSNSで話題を集めていましたね。カメラを通して富山の景色を発信するようになったきっかけは?
 幼稚園の頃からインスタントカメラをおもちゃ代わりに遊んでいて、カメラはずっと私の相棒でした。旅をすることが好きで、海外の絶景を撮りに行くこともありました。世界中のいろんな場所を訪れて、改めて富山の景色に魅力を感じています。特に立山連峰は圧倒的な存在感ですね。標高3,000mの立山連峰から海底1,000mの富山湾まで、山と平野と海の美しさが凝縮されている地域は世界でもなかなかない景色だと思っています。

 そんな富山の景色の発信を始めたのは“富山愛”の強さからです。大学時代に、富山出身の同級生が口をそろえて「富山って何もないよね」と話していたことが悔しくて。カメラに収めた富山の美しい景色を自信を持って伝えるために、2016年にSNSでの投稿を始めました。徐々に多くの人たちからリアクションをもらえるようになりました。「富山にこんな場所があったんだ」と魅力を再発見してもらえるきっかけになっていればうれしいですね。


ーUターンで富山に戻り、井波に拠点を構えた大木さん。地域のどんなところに魅力を感じますか?
 
富山は人との交流が楽しいです。東京には埋もれてしまうくらい大勢のカメラマンがいますが、富山ではカメラを通して人とつながれるチャンスが多いのかなと感じています。カメラは地域の人との交流を深めていくツールにもなっていますね。「ちょっと撮らせてもらっていいですか?」と話すきっかけもつくれるし、撮影の間にその人を独り占めして対話ができるのは特権だと思っています。

 ご縁があって住み始めた井波も、人が魅力的です。田舎は閉鎖的でよそ者扱いされるんじゃないかという話をネット上でよく見かけますが、井波はウェルカムな環境でした。住む前から町内会の集まりに呼んでくれたり、家探しや引っ越しもまちの人たちに助けてもらったり、温かく迎え入れてもらえました。


ー近年の井波の変化をどう感じていますか?
 私が住み始めた頃の井波とは雰囲気が変わりつつあります。以前は、“過去から現在を魅せるまち”という印象だったのですが、現在は“未来を感じるまち”になっていると感じています。きれいなまち並みがあることは変わりないのですが、人通りが増えて若い世代の人々もまちを歩くようになり、より活気に満ちてきました。私が移住してから5年間くらいは20代が全然いなかったので。撮影先以外でも気軽に話せる同世代の友人が増えてうれしいですね。


ー井波彫刻の作品をVRで体験できる「バーチャル井波」など、新しい技術に挑戦し始めたのはなぜですか?
 
挑戦のきっかけは、井波の木彫刻師さんとの出会いです。井波彫刻は複数人で一つのものを完成させる作品づくりに限らず、個人の作家として活動する木彫刻師さんもたくさんいます。井波という小さなまちで、一人一人の個性を感じられる作品をたくさん見ることができるのはおもしろいですよね。

 これまでに井波彫刻の写真をたくさん撮ってきたのですが、写真では作品の魅力を伝えきれないともどかしさを感じています。高解像度のカメラで収めたとしても、現代ではほとんどの人がスマートフォンの画面でしか見ないんです。小さな画面では、例え2m程ある大きな作品だったとしてもその迫力は伝わりません。そこでバーチャルの世界に挑戦してみようと、独学で半年ほど学んで身につけました。作品が持つ個性の細部を、よりリアルに知ってもらいたいです。富山の景色をSNSで発信した時と同じように「自分の好きなものをいろんな人に知ってもらいたい」という想いが原動力になっています。


ー今後の意気込みを教えてください。
 これからもカメラやVRを通していろんな人たちとコミュニケーションを交わしながら、事業や作品づくりに挑戦している人たちの発信のお手伝いをしていきたいです。

 また、今ある魅力を次の時代に残していきたいです。“記録”はありのままの形をそのまま残す必要はないと思っています。誰かが触れた時に、その存在を知るきっかけや記憶をたどることができるような手がかりであればいいなと。もし井波彫刻の作品がずっと先の未来に形が変わっていたり、なくなっていたりしても、時代の記憶をたどることのできるような仕組みとしての“記録”を残していけたらいいなと思っています。

文・徳田琴絵(うみとやまローカルラボ ツアーコーディネーター・富山オタクことちゃん)
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富山オタクことちゃんの編集後記
私もよく大木さんの撮影現場に立ち会うことがあるのですが、その場が持つ空気になじみ、人であってもまちの景色であっても、いつの間にかサラリと自然で美しい場面を撮り収めてくれていて毎度感動します。たくさんの景色や人の魅力に向き合ってきた大木さんの今後の挑戦と発信にも大注目です!
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