16日朝、富山市小杉の住宅地でクマの目撃が相次いだ。民家敷地内に侵入したとの連絡を受け、市は県内で初めて自治体判断で銃猟を可能とする「緊急銃猟」の許可を出し、猟友会や警察と警戒に当たったがクマは見つからなかった。周辺地域では15日夜から出没が続いており、市などは住民に引き続き注意を呼びかけている。

 富山市によると、16日午前7時20分ごろ、小杉地区の民家敷地で成獣1頭が目撃された。その後、地元猟友会員や警察官らが駆け付け、現場周辺に規制線を張り、付近住民に避難を促した。

 周囲に追い払うと住民に危険が及ぶ可能性があり、麻酔銃では対応が難しいことなどから、午前10時10分ごろに市長が緊急銃猟を許可した。周辺を捜索したものの、クマの姿は確認されず、約40分後に態勢を解除した。

 現場は、富山地方鉄道小杉駅から約460メートル南西に離れた住宅地。猟銃を手にした猟友会員や警察官ら数十人が周辺を囲むように警戒に当たり、一時騒然とした。近隣では前日夜から目撃情報が多数寄せられていた。

 近くには富山南高校や蜷川小学校があり、児童生徒は車で登下校するよう保護者に求めた。

 藤井裕久市長は「市民の安全確保のため、制度にのっとり、適宜適切に判断した」とのコメントを出した。市は17日に臨時部局長会議を開く。

 県自然保護課によると、9月1日~10月16日に県警や市町村に寄せられたクマの目撃・痕跡情報は210件で、昨年9、10月の75件の約3倍に上っている。今秋はツキノワグマの餌となるブナの実が県全域で凶作、ミズナラは不作となっていることが増加の要因とみられるという。

緊急銃猟ドキュメント

6:30 前日の富山市堀での目撃情報を受け、市職員と鳥獣被害対策実施隊員が現地確認を開始

7:20 同市小杉の民家敷地内で目撃情報。その後、市職員らが現地に向かう

8:35ごろ 市長、副市長に状況報告。捕獲準備を開始

10:10ごろ 捕獲態勢が整い、報告を受けた市長が現場で判断するよう伝え、市森林政策課長が実施隊員に緊急銃猟を指示

10:50ごろ 民家敷地内を捜索もクマは見つからず、緊急銃猟の態勢を解除

緊急銃猟、4条件満たせば可能

 緊急銃猟は、人の日常生活圏にクマなどが出没した場合、安全を確保した上で、市町村の判断で発砲できる。9月1日に改正鳥獣保護管理法が施行され、制度の運用が始まった。

 (1)住宅や広場などに侵入またはその恐れがある(2)危害防止が緊急に必要(3)銃猟以外で的確かつ迅速な捕獲が困難(4)住民らに弾丸が当たる恐れがない―の四つの条件を全て満たした場合に可能となる。対象はヒグマ、ツキノワグマ、イノシシの3種。

 環境省は7月に公表した指針で、各自治体に対し、マニュアル作成など平時からの体制確保を推奨。富山市は簡易的な手順書を作成しており、今回はこれに基づいて対応した。

 同省によると、自治体が緊急銃猟の実施を決めたのは富山市が4例目。これまでに山形県の鶴岡市と米沢市、仙台市が実施を判断しており、実際に発砲・駆除に至ったのは今月15日の仙台市のみだという。