木彫師・一般社団法人ジソウラボ 理事
前川 大地(まえかわ だいち)さん
富山県南砺市井波出身。愛知県立芸術大学美術学部彫刻専攻卒業後、2001年にドイツに渡り、アーティストのアシスタントを務める。05年より父である前川正治に師事し、木彫師 前川金治として創作活動を開始。20年に一般社団法人ジソウラボを立ち上げ、理事に就任。まちづくりにも力を注ぐ。

人口8,000人のまちに約200人の木彫職人が住む井波。瑞泉寺再建とともに発展し、まちの文化の中心となった井波彫刻。約250年の歴史がある井波彫刻の担い手の一人、木彫師の前川大地さんにお話を聞きました。
ー井波彫刻と聞くと寺社仏閣で見られるような日本の伝統的な装飾をイメージしますが、前川さんは木彫シャンデリアなどの洋風な作品にも挑戦されているのですね。
木製のシャンデリアは、井波彫刻の代名詞である欄間から発想を得ています。欄間はかつて井波彫刻の主力でしたが、時代と住宅事情の変化と共に需要は衰退していきました。欄間のように生活の中に取り入れることができて、なおかつ高価格帯で装飾が多用されるものを考えた時に、シャンデリアが思い浮かびました。
作品づくりの発想にはドイツでの経験が反映されていると思います。大学卒業後、いずれは家業を継ぐことを念頭に置きながらもドイツに渡り、2年10カ月を過ごしました。井波彫刻のそばで育った影響なのか幼い頃から豪華な装飾や建築に興味を抱いていました。特にヨーロッパへの憧れが強かったこともあり、当時建築ラッシュだったドイツを選びました。語学学校に通い、ベルリンで出会ったアーティストのアシスタントを務めながら、ヨーロッパの生活を楽しんでいました。

ー井波に帰ってきたときはどのように感じましたか。
木彫師として井波彫刻に内側から関わるようになってから、さらに井波彫刻の良さが分かりました。つくり手の一人一人が持つ個性や愛らしさを日々の対話の中で感じています。
井波に戻ってきた当時、兄弟子だけでなく井波彫刻のコミュニティーの中で温かく迎え入れてもらいました。井波彫刻は個人プレーだけではありません。世代間を越えて日頃からコミュニケーションを交わし、連携して作品づくりを行うこともよくあります。いいものをつくりあげる上で、井波彫刻がコミュニティーとして成り立っていることはとても大切なことです。

ー作品づくりの傍ら、まちづくりにも携わる前川さん。ジソウラボとして活動を始めたきっかけは?
まちづくりに関わろうと思ったのは、ジソウラボの発起人でありリーダーの島田優平さんのある言葉がきっかけでした。2019年に井波の日本遺産認定に向けて発足した若手世代によるワーキンググループの議論の中で、島田さんは「井波の未来を考えるには、井波彫刻のことを考えないといけない」と話してくれました。井波の未来=井波彫刻の未来ということは、私も井波彫刻に限らず、まちの未来のための行動を起こさなければと気づきました。
井波彫刻の業界は高齢化が深刻です。井波彫刻組合の青年部が休止になったとき「このままでは井波彫刻がなくなってしまう」と担い手不足の危機感を抱きました。次の時代に井波彫刻を残すためにも、人づくりに取り組もうとジソウラボの立ち上げに参画しました。

ージソウラボはどんな活動をしているのですか?
ジソウラボは「つくる人をつくる」をコンセプトに、次世代の源泉となる人材の輩出支援を主軸に活動をしています。これまでの成果としてベーカリーやコーヒー屋、ブリュワリーが新たに開業し、まちににぎわいを生み出しています。
ジソウラボの発信により、井波彫刻としてもうれしい事例が生まれました。2021年に糸鋸(いとのこ)師の担い手を東京から迎え入れることができました。糸鋸師は井波彫刻をサポートする大切な職人です。井波では専門の職人が長年不在となっていたところに、新たな一歩を大きく踏み出すことができました。井波彫刻に関わる職人たちでサポートを続けていきます。
ー今後の意気込みを教えてください。
近年の井波は、昔に戻りつつあると思っています。もともと井波は江戸明治の時代に、五箇山から成功してまちに下りてきて井波でお店を出すといった挑戦の場でした。瑞泉寺が開いたことで域外から人が集まり、受け入れながらまちが発展してきました。今の井波も域外からお店を出店したりと、挑戦する人たちが増えてきています。
ジソウラボでは人をつくり、人を残す。木彫師としては作品をつくり、作品を残す。これからも井波の可能性を感じてもらえるような活動を続けていきたいです。

文・徳田琴絵(うみとやまローカルラボ ツアーコーディネーター・富山オタクことちゃん)
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富山オタクことちゃんの編集後記
「次の時代に井波彫刻を残す」という言葉を聞いて、例えば木彫シャンデリアを目の前にして感動する私はもちろんのこと、次の時代を生きる人々をも魅了するのだろうと思い巡らせました。木彫刻の作品は、人の一生よりもはるかに長く残っていくもの。時代を越えていく作品づくりに取り組みながら、時代をつくる人づくりにも取り組む大地さん、かっこいいです!
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2月17日(土)~18日(日)実施の『うみとやまローカルラボ2024』冬編では、富山県西部で地域活性に取り組む“ローカルプレイヤー”の皆さんに会いに行く学びの旅を開催します。
皆さんのご参加をお待ちしております。
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