もうすぐ狩猟が解禁されます。「とやまジビエ」をおいしく味わえるシーズンの到来です。ジビエは料理人にとって魅力ある食材。各飲食店が工夫しながらこだわりの料理を提供しています。〝山と森からの贈りもの〟を味わいに出かけましょう。

とやまジビエ…富山県内で捕獲されたイノシシやシカなどを適正に食肉処理した野生鳥獣肉

オステリア佐藤(富山市)

自ら仕留めたジビエの 味わいをシンプルに引き出す

 キジやイノシシ、カモ、シカなど、オーナーの佐藤靖浩さんが自ら仕留めた多彩なジビエでファンの心をつかんでいる。元々は魚介料理が中心だったが、佐藤さんが約10年前から狩猟を始め、素材の個性を生かした料理を提供。「動物の状態を一から自分の目で確かめられるのは、ジビエならでは。性別や年齢、捕獲時季などによって味が大きく変わるので、個体差の見極めが大切」と力を込める。

ウリボウ(仔猪)の炭火焼き(100g3,000円〜)、スペアリブ(1本400円)しっとりとしてやわらかく、うまみが濃い。写真の炭火焼きは約120g。料理は1人前ずつ取り分けて提供する

 捕獲後に素早く適切な処理をされた肉は、臭みがなくやわらかい。調理は手を加えすぎることなく、素材そのものの味わいを最大限に生かす。炭火でじっくり火入れした子イノシシは美しいロゼ色で、口に含むと濃厚なうまみがすっと広がっていく。「誰が食べてもおいしいジビエを目指しています」と佐藤さん。シンプルな一皿には、ジビエ料理への情熱が込められている。

雉と季節野菜のスパゲティ(1人前1,800円)ソース、具材の肉ともにキジのみ使用し、深みとこくのある味わい。写真は約1.5人前
オーナーの佐藤靖浩さん

オステリア アクアフレスカ(砺波市)

適材適所の調理で ジビエの魅力を生かす

 手書きのメニューボードに記されているのは、富山湾の海の幸や地元野菜を使った個性豊かなイタリアン。イノシシやクマ、シカなどのジビエを使ったメニューも幅広くそろう。やわらかい部位はローストやベーコンに、うまみが詰まった部位は煮込み料理にするなど、適材適所の調理でジビエの魅力を生かす。

ズッパ ディ ファッロ(スペルト小麦と白いんげん豆のスープ、1,300円)富山の自然の中で育ったイノシシの良質な脂が溶け込む。ジビエのスープはこのほかに「熊肉のミネストローネ」と「鹿肉のコンソメスープ」を用意

 ジビエ初心者におすすめしたいのが、イタリア中部のスープ「ズッパ ディ ファッロ」。プチプチした食感の「スペルト小麦」と白いんげん豆を、イノシシ肉のパンチェッタと一緒にやわらかく煮込んだ。富山の気候に近いイタリア中部の家庭料理は親しみやすい味わいで、ジビエの味を知る第一歩にぴったりだ。

イノシシ肉のサルシッチャのトマトクリーム ストロッツァプレティ  コース料理の一品。自家製の手打ちパスタに、薄く切ったイノシシ肉のソーセージを合わせた
オーナーシェフの小西富治さん
 

庄川峡 長崎温泉 古民家の宿 おかべ(南砺市)

3種類の肉そろう 民宿の夕食コース

 看板料理はジビエ。そんな宿が南砺市利賀地域にある。夕食コースにはクマとシカ、イノシシの3種類の肉がそろう。

熊汁  1泊2食付きの宿泊プラン(1人19,000円〜、2人から受け付ける)の夕食コースの一品。脂が乗ったクマ肉を仕入れるよう努めている

 中でも自慢なのは「熊汁」だ。クマの肉はやわらかく煮込まれ、濃厚な味わい。昆布とかつおのブレンドだしに、五箇山豆腐や自家栽培のジャガイモ、ゴボウなども入り、具だくさんだ。昨年開かれた「とやまジビエ特別食事会」で提供し、来場者や関係者から高く評価された。女将で栄養士の岡部智美さんは「地域の伝統的な味を認めてもらえてうれしかった」とほほ笑む。

鹿のシチュー  夕食コースの一品。シカ肉はあっさりとして食べやすい。デミグラスソースと合わせる

 2022年3月にリニューアルした。食事する座敷のふすまには、高岡市の日本画家、西藤哲夫さんに紅葉やしだれ桜などを描いてもらった。特別な空間で食べる山の幸は格別だろう。

女将(おかみ)の岡部智美さん