——21分という短い上映時間の中で人生を伝えようとしたんですね。
そうですね。最近、短歌ってブームですよね。少ない言葉数で全てを説明せず、言外で大切なことを伝える。僕がやりたいことと似ています。『ゆ』は21分間の短い映画だけど、何十年と生きてきた人の物語です。見る人の頭の中で描かれていない人生を感じてもらえたらうれしい。

僕らがやっているインディーズ映画って詩みたいなところがある。楽しませるということは忘れてはいないけど、人によって見え方が違うんです。嫌いっていう人がいてもおかしくない。
同じタイミングで感動して泣いて、なんていうことはありえない。見る人の人生によって完成する。だから「銭湯の大切さを伝えたいんですか」と言われても困る。そんなに単純ではないです(笑)。
——前作『フレネルの光』から続いて富山で撮影しました。地方を前面に出した映画は「田舎だけど、ここはいいところ。頑張るぞ」みたいなのが多いですけど、平井さんの作品は違う。
いわゆる「町おこし映画」ではないです。もちろん結果として「富山や銭湯っ
ていいな」と思ってもらえるにこしたことはない。でも、それは目的ではありません。『フレネルの光』は地元の水橋を舞台にしました。立山連峰とかチューリップとか富山の風物詩的なものは映していません。あくまでも「ふるさと」として、誰かが帰る場所として撮りました。

印象的だったのが、オランダの映画祭です。「懐かしくて私の街を思い出した」と言うお客さんがいました。建物も、空の色も、気候も富山とは違います。でも、富山の風景を見て、自分のふるさとを思い出したと言ってくれたんです。
今回も銭湯が題材だけど、「大切な人の大切な場所」というテーマで撮影しました。だから見る人によっては「自分の大切な人が通っていたカフェ」を思い出すかもしれない。そうなれば監督冥利に尽きる。

——コロナ禍を経て『ゆ』が上映されるようなミニシアターが苦境に陥っているようですね。Netflixのようなサブスクで映画を見る習慣が根付いてしまった。