イミズスタンがあるじゃないか!
イミズスタンを命名 カレー探偵やみちゃん(射水市在住)に聞く
富山県でカレーといえば、イミズスタン。全国からカレー好きが集まる聖地となっています。イミズスタンの命名者で、カレー研究家・ブロガーの「カレー探偵やみちゃん」(射水市在住)に、イミズスタンを中心に、県内のカレー事情を聞きました。(情報は取材時の内容です)
ーまずイミズスタンとは?
イミズスタンは、射水市を中心とした、パキスタン・インド出身者が営む現地スタイルのレストランがあるエリアを指します。イミズと付けているんですが、射水市だけじゃなく、周辺の高岡市や富山市なども含む、カレー広域圏なんです。
イミズスタンには二つの系譜があります。「デリーあわら本店」(高岡市)をはじめとした、日本人オーナーがインド人のシェフを連れて始めた系譜と、中古車販売業が斜陽になったパキスタン人らが業態を転換し、自分たちの食堂を発展させてレストランにした流れです。
中古車を販売するために日本に出稼ぎに来たインド人やパキスタン人が、母国で食べるハラールな食事を日々取りたいということで、1990年代ぐらいに少しずつ食堂ができました。2002年に開店した「カシミール」(射水市)はその一つで、イミズスタンの象徴的な店です。当時、日本人客は珍しく、店に入ると「あれ、君、間違えて入ってきたの?」という感じで、店内の人に一斉にじろっと見られる、入りづらい雰囲気がありました。お話ししたら怖くないんだけど。だから当初、いくつか店はできたんだけど、はやらなかったんです。今大人気の「HOT SPOON」(射水市)も、06年に1店舗目を高岡市でオープンしたんですが、あっさり閉店しています。

インドカレーが好まれた下地
ーそんな時代があったんですね……。でも、今は日本人にも人気ですよね。
50年以上前にすでに「デリー」という、本格インド料理を出す店がありました。当初お客さんから「こんな、しゃばしゃばなの、カレーながけ」と言われていたそうなんですが、今50歳以下のカレー好きはこれで育っているんですよ。そこから独立した「タージ・マハール」(富山市)も1988年にできた。この2店は「本場のインドカレーってこんな味なんだね」と県民に受けた。受け入れられる下地はあったんです。
もともとカレーが好きだった僕は、どうして「HOT SPOON」のようなおいしい店が撤退するんだろうと疑問に感じていました。「怖くないことが分かれば、みんな来てくれるんじゃないか」と考え、2009年にブログを始め、食べに行った記録を発信するようにしました。SNSが広まりだした時期と重なって、少しずつイミズスタンのファンが増えていったんじゃないかなと思うんです。
業態転換迫られ 出店相次ぐ
レストランが増えたきっかけは、09年の、ロシアによる中古車の関税の引き上げです。中古車販売業者は車で商売しづらくなり、困ってしまいました。ちょうどその頃、「カシミール」に日本人が訪れるようになり、レストランがもうかり始めていました。彼らは貪欲にビジネスの芽をつかみ取った。皆さん、レストラン経営は素人だったんだけど、中古車販売業で財をなしていたので、お店を作る力があり、日本人に受けるようなレストランをつくっていったんです。モスクですぐに情報が伝わって開店が相次ぎ、11年に〝カレー戦国時代〟に突入しました。

今は第3ステージ 支店増・エリア拡大
店同士がさらに競い合って潤い、今は第3ステージというような感じ。支店が増えているんです。20年に「KHUSHI」(高岡市)が富山市に、「ザイカ・カレーハウス」(高岡市)も21年に射水市に、「インディアンハット」(富山市)はことし3月に滑川市に、それぞれ2号店を出店しました。分布エリアが拡大傾向にあり、競争が激化しています。
ーところで、イミズスタンの「スタン」はパキスタンが由来なんですか。
「スタン」はペルシャ語で「〜の国、〜の多いところ」という意味です。埼玉県八潮市の「ヤシオスタン」に対抗して名付けました(笑)。八潮市には、中古車オークションの会場の近くにパキスタン料理の専門店があったことから、そう呼ばれたんです。でも僕はイミズスタンの方が全然すごいと思っています! イミズスタンの店数は、射水市内に5、6軒、富山、高岡市も含めたら10軒以上あり、ヤシオスタンより多い。イミズスタンは一帯として楽しめるのが強みだと思います。
恵まれた環境 気付いてほしい
ー全国どこにでもあるわけじゃない、貴重な文化ですね。
インドやパキスタンに行かなくても、現地と変わらないものが目の前にある、こんな最高な環境はないんじゃないですかね。
県内にはパキスタンやインドのほか、バングラデシュやスリランカのカレー店もあります。洋食店で提供される、日本で一般的な欧風カレーや、ワンプレートに映えるよう盛り付ける大阪発祥の「スパイスカレー」も食べることができます。
ーカレー好きにとって恵まれた環境ですね。
地元の人たちは良さにもっと気付いた方がいい。パキスタン人やインド人のオーナーは「日本人のお客さんに来てほしい」と思っているんです。友達と一緒でもいいので、一歩踏み出してほしい。店に入って食べてみてほしいんです。結構安くておいしいですよ。ボリュームたっぷりで食べきれないくらい(笑)。スタッフと会話してみたらいいと思います。全然怖い人たちじゃないし、日本語もペラペラです。おいしいイミズスタンを体感してほしいですね。

プロフィール/カレー探偵やみちゃん
射水市在住のカレー研究家・ブロガー。2009年に「カレー探偵事務所」を開局し、ブログ「やみちゃんの世界食べ歩き」で県内のカレー店情報を発信開始。イミズスタンの命名者。
ブログ:https://ameblo.jp/yamikomon/