商業演劇や小説など多彩なジャンルで活躍する松澤くれはさん(富山市出身)。今度は日本を代表するコンテンツである『ポケモン』のテレビアニメ制作にも関わっている。シリーズ化を見据えた新作小説『想いが幕を下ろすまで 胡桃沢狐珀の浄演』(集英社文庫)も刊行。勢いに乗る創作活動について語ってもらった。(聞き手・田尻秀幸、撮影・鳥飼祥恵)
——ポケモンの話は尽きないけど、新作小説『想いが幕を下ろすまで 胡桃沢狐珀の浄演』(集英社文庫)も発表されました。
小説家デビューして5年。そろそろ自分の看板作品を作れたらいいなって思っていました。だから今回の作品はシリーズ化を念頭に置いています。

——特に前半部分の細部の描写は、演劇を分かっている人じゃないと書けない悲哀がありましたね。
取材しても書けないものってあるでしょう? 経験していないと分からない温度のようなもの。初めてシリーズ物を想定した作品の1作目なので、自分の得意な題材、リアリティーを持って書ける題材として演劇を取り上げました。
今回は「演じるとは何か」ということを書きたかった。役を演じても、気持ちはうそじゃない。セリフは自分の言葉でなくても、本当にいい芝居ならうそがないんですよ。気持ちは本当。そういうテーマと、舞台上での心霊現象を結び付けています。

——主人公は幽霊と一緒に即興劇をする「浄演」という儀式を通じて死んだ人の思いを知ろうとします。
もともと僕の舞台には死んだ人がよく登場する。肉体を持つ役者が肉体を持たないはずの死者を演じることができる。それが演劇の強みの一つです。今回の小説はその延長線上にあります。生きているか、死んでいるかっていうことよりも大事なものが人の抱えた思いでしょう。それを表現できていればって思います。

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