ホテル黒部 代表取締役
中島 勝喜(なかじま かつよし)さん
富山県黒部市生まれ。2018年2月よりホテル黒部の代表取締役を務める。ホテル黒部は、ももクロファンに有名な温泉旅館。黒部峡谷の雄大な景色に囲まれており、露天風呂では対岸を走るトロッコ電車を眺めることができる。スタッフの心温まるおもてなしも好評。

人気アイドルグループ『ももいろクロ―バーZ(以下、ももクロ)』の“聖地”として、全国からももクロファン(以下、モノノフ)が訪れているホテル黒部。社長の中島さんにそのストーリーを聞きました。
ーホテル黒部が、ももクロの聖地になったきっかけは?
2019年に黒部市で開催された野外ライブ「ももクロ春の一大事 in 黒部」がきっかけです。
日頃からTwitterでホテル黒部の取り組みを発信していたのですが、2018年のある日に「黒部にももクロが来るんだって」と何気なくつぶやいたツイートが、モノノフのみなさんのなかで話題になりました。投稿を見たモノノフのMさんが当ホテルを訪ねて来てくれたことからモノノフのみなさんとの交流が少しずつ広がっていきました。
Mさんが「ライブ当日は、黒部がモノノフたちで溢れかえりますよ。ライブに向けて、ももクロカラーの4色(赤・紫・黄・ピンク)を使ってファンを迎える準備をしてください!」と提案してくれて、当ホテルの“ももクロ推し”のおもてなしが始まりました。暖簾などの館内のアイテムや会席料理など、さまざまなコンテンツに4色の彩りを取り入れています。新しいおもてなしのアイデアを考えるのはとても楽しかったです。
準備と発信が報われたのか、黒部でのライブ開催一週間前にはももクロのメンバーが宿泊してくれました。後日、ラジオでホテル黒部に宿泊したことをメンバーが話してくれて、一気に全国のモノノフに広まり“聖地”となっていきました。
ー中島さんはもともとモノノフの一員だったのですか?
最初はアイドルにあまり興味がなかったのですが、Mさんが貸してくれたももクロのライブDVDを見たときに想像していたアイドル像が覆りました。「たくさんの人を笑顔にすることで、私たちは天下を取りたい」という彼女たちの活動理念にビビッと感銘を受けました。当ホテルの経営理念にも「お客様の笑顔を創る」という言葉があります。私と彼女たちの理念がリンクしていることもあり、彼女たちを応援したいと強く思うようになりました。2018年当時は父から代替わりをして私が社長になって間もない頃でしたので、勇気付けられましたね。

ーモノノフのみなさんとの交流は、現在も続いていますか?
毎年の冬の名物である宇奈月の花火大会に併せてモノノフのみなさんが泊まりに来てくれたり、Twitterでの交流を続けたりと、ご縁をあたため続けています。
また、当ホテルにはモノノフのみなさんと一緒につくりあげた「ももクロコーナー」があります。最初は1つの小さなテーブルに私が持っていたグッズを置いていただけだったのですが、宿泊された方や、ライブで交流した方から「ホテルに飾ってください」と寄付をいただいて、テーブルに納まりきらないほどみなさんの愛で溢れるようになりました。そこで、もともとお土産の売店だった場所を「ももクロコーナー」にしました。500点以上のももクログッズが並んでおり、今も少しずつ増え続けています。
ーももクロ効果をどのように感じていますか?
宇奈月の花火大会にももクロメンバーが遊びに来てくれることもあり、継続して盛り上がり続けていた最中に新型コロナウイルス感染症の流行期に突入しました。突然人がいなくなり、館内には空調の音だけが響き渡る毎日へと一変しました。幼い頃からここで育ってきた私ですが、こんな経験は初めてでした。
ショックで誰にも会いたくないと思う日もありましたが、ももクロが歌う応援歌に励まされました。ある曲の「雨の日も風の日も負ケズニここに立ち続けたい」というフレーズを聴いて、僕もそうじゃなきゃと背中を押してもらっていました。
コロナ禍でも、モノノフの方々が遠方からわざわざ訪ねて来てくれてとても嬉しかったです。ももクロがもたらす経済効果は、未だに黒部のいたるところで続いています。私たちだけでなく、黒部のまちのみんながももクロとのご縁を継続して大切にしているからこそ成り立っていると思います。素晴らしいことですよね。

ー中島さんが大切にしていることは?
お客様だけでなく、働くスタッフにも笑顔になってもらいたいと思っています。社長になってみて初めて、自分の肩に社員やその向こう側にいるご家族や宇奈月温泉全体のことを背負っているという責任感を感じるようになり、学びの日々を過ごしています。
コロナ前と現在とでは、従業員数が半分になりました。今の人数でできることは何だろうかと発想を変えて、会社の仕組みから変えることに取り組みました。通常、旅館業は休み無しの営業が当たり前の世界ですが、火曜と水曜を定休日に設定して余白をつくることで、今までに無かったスタッフとの交流が生まれ、絆も深まりました。当ホテルには、最高のスタッフが残ってくれています。これからも家族のように大切にしていきたいです。
ー今年、宇奈月温泉は開湯100周年を迎えました。中島さんの今後の展望は?
“笑顔創造”という理念にもとづいてチャレンジを続けていきたいです。
宇奈月温泉は、100年の歴史のなかでたくさんの人を癒やし、笑顔にしてきた場所です。人を笑顔にすることに終わりはないとするならば、この先も笑顔を創造し続けていきたいと思います。私たちの仕事は平和なときにだけ栄えることが出来る産業という意味で“平和産業”と言われています。しかし、私は“世の中を平和にする産業”だと解釈しています。そう思えば思うほど、この仕事が楽しく素晴らしいものだと感じています。

文・徳田琴絵(うみとやまローカルラボ ツアーコーディネーター・富山オタクことちゃん)
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富山オタクことちゃんの編集後記
取り組みについて「趣味の延長だよ」と嬉しそうに微笑む中島さん。ご自身が楽しみながら、新しいアイデアを柔軟に取り入れて実行し、たくさんの人たちの笑顔を生み出す。声を弾ませてお話する姿にエネルギーをいただいたひとときでした。
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9月23日(土)~24日(日)実施の『うみとやまローカルラボ2023』夏編では、富山県東部で地域活性化に取り組む“ローカルプレイヤー”のみなさんに会いに行く学びの旅を開催します。みなさんのご参加をお待ちしております。
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