コロナ禍でアウトドアレジャーに注目が集まる中、登山の人気が高まっています。ただ安全に楽しむためには準備が大切なことから「あこがれるけど、なかなか踏み出せない」という人も多いようです。そこで世界最高峰エベレストの富山県人初の登頂者で、山岳ガイドの佐伯知彦さん(立山町)に、親子登山の準備と心得を聞きました。

準備① イメトレで子どものワクワク感創出
佐伯さんが、小学校の立山登山のガイドをする際に一番大事にしていることは、「登りたいという気持ちを育てること」と言います。事前に学校を訪ね、昔の人は立山に地獄があると考えていて、今も地獄に見立てられていた景観が見られることや、ライチョウやオコジョなどかわいい動物たちがいることなど、登ったらどんな景色や面白いことが待っているのかを説明します。
「親子登山も同じ。登山の魅力を知っているのは親だけで、子どもは『なんでこんな大変なことをしなきゃいけないの?』と思っていては頑張れません。途中、けんかしている親子も時々見かけます」と佐伯さんは話します。そこで事前にしてほしいのが、登山のワクワク感を膨らませるためのイメージトレーニングです。
・自宅近くから山が見えたら「あの頂上に行ったら、海まで見えるらしいよ」
・「高山植物のタテヤマチングルマ(ピンクのチングルマ)を見つけたら幸せになれるって」
・「高い山に行ったら、お菓子の袋が膨らむらしいよ」
・「山に行ったら、早くお湯が沸くらしい」
子どもたちの中に「登ったら〇〇したい」という気持ちがあれば、登山中に疲れて心が折れそうになった時に、もう少し頑張ろうという力が湧いて、結果として安全な登山につながります。佐伯さんは、小学校へ事前学習に出掛けるようになってから、途中でリタイヤする子どもが減ったと感じています。
準備② 登る山を決める
家族登山向けに佐伯さんがすすめるのは、県内12の山です。自身が主宰する野外活動サポート団体「山賊Clubとやま」で、子どもたちと登っている山々です。

雄山(3003m)★★★★★
おやま/立山町
浄土山(2831m)★★★★★
じょうどさん/立山町
僧ケ岳(1855m)★★★★
そうがだけ/魚津市・黒部市
中山(1255m)★★★
なかやま/上市町
瀬戸蔵山(1320m)★★★
せとくらやま/富山市
南保富士(727m)★★★
なんぼふじ/朝日町
牛岳(987m)★★★
うしだけ/砺波市・南砺市・富山市
尖山(標高559m)★★
とがりやま/立山町
城ケ平山(446m)★★
じょうがひらさん・じょうがだいらやま/上市町
小佐波御前山(754m)★★
おざなみごぜんやま/富山市
来拝山(899m)★★
らいはいざん/立山町
医王山(939m)★★
いおうぜん/南砺市・石川県金沢市
いずれも登山口が分かりやすく、登山口近くにトイレと広めの駐車場があります。歩くのに楽な道もあれば、厳しい場所もある山を選んでいます。扇状地など富山独特の地形が見える山もあり、体験によって富山の地形や自然を学ぶことができます。
準備③ 情報収集をして登山計画を立てる
山を決めたら、登山口、登山ルート、どのくらいの時間がかかるかなどを調べます。「実際に登ったことのある人から、登山道の様子などを聞いてみると参考になります」と佐伯さんはアドバイスします。
準備④ 持ち物を確認
山に入る際は、ヘビやスズメバチなどの野生動物との遭遇、天候悪化、転倒や体調不良、道迷いなど様々なリスクに備えた装備が必要です。

長袖、長ズボン
履きなれた運動靴や登山靴…ソールがフラットなものは滑りやすいのでNG。
帽子
【持ち物】
リュックサック…肩ひもがしっかりしたもの。ナップサックはNG。
手袋
雨具…上下分かれているもの。ポンチョはNG。
防寒具…フリースなど。登る山によってはダウンが必要な場合も。
お弁当…天候が悪くても食べやすいおにぎりがおすすめ。
おやつ(行動食)…チョコやクッキーなどすぐにエネルギーになるもの。
水…1人あたり最低1リットル。
熊鈴
地図…現在地と登山ルートが分かる登山マップアプリとの併用が便利。
ヘッドライト…万が一に備えて。
水分補給はチビチビ 一口ずつ
水が1人最低1リットルと聞くと、「トイレもない山でそんなに飲んで大丈夫?」と思う人もいるかもしれませんが、佐伯さんによると、熱中症や脱水症を避けるためには絶対に必要な量。ただし飲み方にこつがあります。
「のどが渇いてからゴクゴク飲むのではなく、渇く前にチビチビ飲む。一口飲むだけで体に水分が行き渡るので、またしばらくしたら一口ごっくんと飲む。これを繰り返していると、トイレが近くなりません」と説明します。
準備⑤ 登山日を決め登山届を提出
道迷いなど万が一に備えて登山届を提出します。身近な交番に提出もできますが、インターネットやメールでもできます。提出方法は県警のHPで紹介しています。
当日は天候をしっかりチェックして出掛けます。
佐伯さんは「初めてで不安という場合は、ガイドが同行する登山会に参加する方法もあります。ぜひ山でしか得られない達成感を親子で共有してください」と話しています。