日本を代表するコスチュームアーティスト、ひびのこづえさんは自身が企画したダンスの2作品を3月25、26の両日、オーバード・ホールで上演する。新作として発表する「TYM」は富山を描く。チューリップに五箇山、黒部、立山連峰、おわら風の盆など、富山の豊かな自然や風物詩を衣装とダンスで鮮やかに切り取る。新作に込めた思いを聞いた。(聞き手・田尻秀幸、写真・齊藤健太郎)

——衣装のお仕事を始めたきっかけは、パートナーであるアーティスト、日比野克彦さんの一言だったそうですね。

 夫は大学の同級生でした。彼はいつも私に「正解」をくれるんですよ。何かうまくいかないときにアドバイスを求めると、頼りになる。人が好きで、よく見ているんでしょうね。

 

 私は元々、広告代理店のデザイナーを志望していたんですけど、当時は時
代が時代で、女性は就職できなかった。自分のやりたいことが見つからないまま、イラストの仕事をしていたんです。でも食べるためだけの仕事で正直苦しかった。

 そんな私に日比野はパフォーマンスの衣装を依頼してくれた。お金にはならないけど、不思議と楽しい。そしたら彼が「絵よりも衣装をやったら」って言ってくれたんです。その言葉を頼りに、収入源だった雑誌のイラストの仕事を全部降りて、自作した服を紹介するページをもらったんです。毎月テーマを決めて服を作って、モデルに着せて撮影するという。その1枚の写真を撮るためだけに1カ月費やしました。

——ぜいたくですね。

 そう、とてもぜいたく。今だとあり得ないでしょうね。それを1年間ぐらい続けていると、CMや舞台の仕事が来るようになった。それこそ、自分が入りたかった電通とかから(笑)。バブルに突入する時期でした。

 

——もし電通や博報堂に入っていたら、今のような仕事をしていないですよね。

 それはそうですね。でも、自分がやりたいものを探していたら、出合えるもんなんです。実はアパレルに2カ月だけ就職した時期もあった。当時の部長さんがいい人でしたね。私はロゴやグラフィックのデザインを担当していたんだけど、「あなたのはデザインはいいんだけど、うちのブランドに合わないね」ってはっきりと言ってくれました。その言葉で踏ん切りがついて、自分の創作をすればいいと思えた。

 

——舞台はいろんな人が関わる。衣装は自分だけの思いではできないでしょう?

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