1950年代のニューヨークを舞台にした本作は、専業主婦ミッジが夫の浮気をきっかけにスタンダップコメディエンヌへと転身を図る歴史コメディ。

イラスト:kumiko yamaguchi

 ミッジは淡いピンクのドレスに真っ赤なボレロを合わせるなど、色鮮やかなファッションを身に纏う。持ち前の明るさとユーモアで家族の揉め事や業界のタブーを乗り越える、そんな彼女を表すかのよう。一方、ミッジの才能に惚れマネージャーを志願したスージーは、気性が荒く口が悪い。いつも同じグレーのハンチング帽に黒の革ジャケットを着ている。正反対の2人は度々衝突するが、互いを尊重し合い少しずつ友情を育む。

 シーズン3第7話が印象的だった。スージーが大物芸人に「ミッジは伝説になる」と啖呵を切る。すぐ後に、アメリカのパワー・ポップバンド「ファウンテインズ・オブ・
ウェイン」が1996年に発売したデビュー作の収録曲「シンク・トゥ・ザ・ボトム」が流れる。「君と(海の)底に沈みたい」という歌い出しが、男社会のコメディ界でミッジととことんやり抜くぞ、というスージーの宣誓に聴こえた。

 いつもバッグに入れているお守りのようなレコードが、DJなら誰でもある。私にとっては先述した曲が入ったアルバムがそれにあたる。このシーンを観てから、曲をかけるたびに「男だらけの音楽界で、私は誰と戦おうか」とぼんやり考える。スージーのように、いつでも抗う準備はできている。

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DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。