制作したのは、木村さんと村田正和さん(52)、真野寛生さん(38)、野尻将樹さん(28)の4人です。カレンダーに使ったのはそれぞれの自信作。雪に覆われた立山連峰をバックに飛行機が上昇していく2月や満開の桜の上を飛んでいく4月など、どの月も富山ならではの美しい景色と機体が一体となった美しい写真ばかりです。
本当は立山を撮りに行ったのに…
かつては男性の趣味という印象が強かったカメラも、デジカメの普及など今では性別に関係なく楽しむ人が増えています。ただ、乗り物に限ると、まだまだ男性が多いようです。木村さんも元々は風景を撮るのが趣味でした。きっかけは今から3年前の12月。冬の立山連峰を収めようと、富山空港の対岸にある神通川の河川敷に出向いたときでした。「私は知らなかったんですけど、その場所は飛行機の撮影ポイントだったそうなんです」と当時を振り返る木村さん。偶然、その場に居合わせたのが飛行機を撮りに来ていた真野さんでした。空港に背を向けて撮影の準備をする木村さんを見て、不思議に思っていたそうです。
でも、飛行機が離陸するタイミングになっても木村さんは空港に背を向けたまま。真野さんは親切心から声をかけたそうです。「飛行機、来ますよ」。その声を受け木村さんは夢中でシャッターを切りました。初めて撮った航空写真。画像を確認すると、雪景色の立山連峰をバックに雄々しく飛び立る全日空機が収められていました。これまで撮っていた風景とは異なる情景。「飛行機に目覚めてしまいました」と笑顔が浮かびます。
富山ならではの景色次々
カレンダーは、雪に覆われた立山連峰をバックに飛行機が上昇していく2月や満開の桜の上を飛んでいく4月など、どの月も富山ならではの美しい景色と機体が一体となった写真ばかりです。富山空港は全国でも珍しい河川敷にある空港。6月は神通川のせせらぎが聞こえそうな清流を手前に据え、山並み、青空とパノラマで捉えたダイナミックな景色の中を飛ぶ全日空機をとらえるなど、他県では撮れないような写真も多いのが特徴です。
4人の思いがこもっているのは1月です。オーソドックスに考えるなら、新年の幕開けに合わせて勢いよく飛び立つ飛行機を使うところですが、あえて、これから着陸するという場面を選びました。新型コロナウイルスの感染拡大で、不安に包まれたこの1年。「物事が万事収まってうまく着地したところから新年が始められるように」との願いを込めたそうです。
木村さんの作品は3月、7月、9月に使われた。緑がかすかに色づき始めた立山連峰をバックにした3月、日没が遅くなる夏だからこそ撮れる夕焼けと機体が一緒になった7月、雪のない「黒い立山」が姿を現す9月と、風景にこだわっています。住まいは、空港から車で10分という好立地。天気図や運航状況が分かるスマホの専用アプリを絶えず、チェックしながら、撮影のタイミングを探っています。週末は、家事をてきぱきと済ませ、機材を抱えて空港に向かうのだとか。木村さんは「夫も温かい目で見てくれて、何とか趣味と家事を両立させています」と話します。
見送り一転「作ろう!」
実は、カレンダーの制作は昨年に続いて2回目でした。北陸新幹線の開業で利用が低迷する空の便を応援しようと取り組みました。好評を受け、今年も作る予定にしましたが、コロナで状況が一変。外出さえもはばかられるようになり、仲間内で「今年は見送ろう」との雰囲気になっていました。秋に入って声を上げたのが木村さん。「空の便が厳しい状況だからこそ、応援しなきゃ」。1日4往復だった主力の全日空富山―東京便は、2往復に減便され、札幌便や国際線の中国・大連便と上海便、台湾便は、ずっと運休が続いていました。ことし4~9月の上半期でみると、東京便の利用者は前年から9割減となり、路線の存続すら危ぶまれる状況に追い込まれていたんです。
4人は「こんな状況だからこそ、作る意味がある」と思い直し、制作をスタート。過去に撮ったものも含めて候補の作品を出し合い、構成を決めていきました。
カレンダーは、A3サイズで製作。より多くの人に使ってほしいと価格は、制作実費のみの1540円(税込み)とした。4人の取り組みに富山空港側も反応。運営を担う富山空港ターミナルビルは50部を買い取り、売店「まいどは屋」に専用のコーナーを設けました。
手頃な価格と美しい写真が好評で、売れ行きは好調だそうです。同ビルの下川雅一専務は「せっかくの良い取り組み。私たちも応援したい」と喜んでいました。メンバー4人は、少しでも富山空港の魅力を知ってもらいたいと自らのSNSも駆使し、カレンダーを発信しています。