DJイベントでは普段交わることの少ない20代の若者と出会う。声をかけると「やりたいことがあってうらやましい」と言われることが多い。

 「ちはやふる-めぐり-」は、リアリストの冷めた高校生が、顧問や仲間との出会いをきっかけに競技かるた部で全国大会出場を目指す青春ドラマ。映画「ちはやふる」シリーズの10年後を描くオリジナルストーリー。

 藍沢めぐるは、中学受験の挫折をきっかけに、「タイパ(タイム・パフォーマンス)」を重視する高校生活を送っていた。ある日、幽霊部員として競技かるた部に所属する彼女に、大会出場の人数合わせで声がかかる。「青春なんて時間とお金の無駄遣い」と退部を考えるめぐるだが、かるたの楽しさに触れ、気持ちに迷いが生じ始める。そんな彼女に顧問の大江奏は、本格的な部活参加を勧める。

イラスト:kumiko yamaguchi

 奏はかつて競技かるたに打ち込んでいた。自らの高校生活を「あの3年間を思い出すと、何度でも立ち上がれる」と振り返る。実は、奏も研究者への道を閉ざされ、かるたの専任読手への夢も諦めるという挫折を味わっていた。彼女の話を聞き、めぐるは「かるたで宝物を見つけられた人は明るい未来が待っていると私に見せてください」と、部活に戻る決意をする。奏は「なってみせます、エビデンスに」と答え、再び専任読手を目指す。

 

 第7話、大会挨拶でかるた名人が「過去の選択はやり直せないが、それを今から正解にすることはできる」と話す。私の場合、誘われたことがきっかけで29歳でDJを始めた。「遠回りしたけど、これで良かったな」と、DJとして自信が持てた40代の今だからそう思う。

 主題曲である、テクノポップユニット・パフュームの「巡ループ」にはこんな歌詞がある。「未来の地図を広げ/焦る気持ちばかり/それぞれいつか居場所を見つけて」。

 生産性や効率ばかりがうたわれる今の時代、若者が何かに夢中になったり、「その時間は無駄だった」と思わずにいられたりする時代であってほしいと、本作を観て強く思う。

DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。