富山ガラス工房が昨年、30周年を迎えた。富山でガラス文化が確かな足場を得たという事実はもっと評価されてもいい。これまで所属したガラス作家は120人以上。富山だけでなく、全国で活躍してネットワークをつくる。「ガラスの街とやま」という惹句が、薄っぺらなキャッチコピーにならなかったのは、そういった才能たちが切磋琢磨してきたからだろう。

 今回、工房に関わった作家の作品が一堂に会した。節目を記念して大御所から若手までがそれぞれの作品を年代ごとに分けて並べるという趣向だ。会場構成の効果だろう。重鎮たちのフロアは緊張感にあふれ、若手作家たちの部屋には奔放さがある。

 

 1990年生まれの作家の手による本作も面白い。一つ一つ微妙に趣の異なるガラスコイルが、何層にも折り重なる。縦横各40㎝、高さ60㎝ほどの造形物でありながら、ガラスらしい重さを全く感じさせない。しかし、ガラスでしかあり得ない光の妙味が際立つ。会場では天井からの照明の光を受け、上部ほど白く輝き、下部ほど灰色の影を帯びる。作為を超えたところで浮かび上がる繊細な光のグラデーションの揺らぎが楽しい。抽象的で無機質な作品だが、不思議と温かい。

 記憶の回想がコンセプトだと聞いて妙に納得する。経験や感覚の断片は記憶の中で積み重なるが、奥底にある思い出が消えてなくなることはない。むしろ、見る角度によっては色を濃くすることもある。そして、それぞれの記憶の光は干渉し合う。ある風景に触発され、全く別の風景を映し出す。それは命がある限り果てなく続いていく。重層的な光の集合は人生の軌跡そのものだろう。

 会場を巡りながら、工房の歴史を知った。多様な背景を持つ作家がバトンをつなぎながら、他分野の芸術家や専門家と協働してきた。そして新たなガラスアートが生まれたのだ。作家たちの足跡を追いかけながら、この先も続いていく歴史がまぶしく見えた。       (田尻秀幸)

富山ガラス工房開設30周年記念展
Gathering(ギャザリング)−つなぐ創造力
会  場:富山市ガラス美術館
会  期:開催中〜6月22日(日)
開場時間:9:30 〜 18:00
    (金・土曜日は20:00まで。入場は閉館の30分前まで)
閉場日:第1、第3水曜日
観覧料:一般1,200円(1,000円)大学生1,000円(800円) 
    高校生以下は無料  ※( )内は前売券(一般のみ)
    及び20名以上の団体料金です。
お問合せ:076-461-3100