デザインにせよ、アートにせよ、傑作には鋭い「問い」がある。既存の価値観やものの見方に疑問を投げかけ、認識の枠組みを揺さぶる。一見分かりやすい作品であっても「なぜ私は惹きつけられるのか」と自問を促す。数学的な問題そのものを作品として提示するアーティストさえいる。問いの形はさまざまだ。いずれにせよ、鑑賞者は作品が発した問いを受け取り、自分なりの解釈を模索し、そこから無言の対話を始める。

 

「西洋は東洋を着こなせるか」ー。朱色のコピーが踊るファッションビル「PARCO」のポスターは、「問い」の塊のようだ。観音像に見立てられたフェイ・ダナウェイは、大仰なヘッドピースと大瀑布のようなローブをまとう。荘厳さを煮詰めたようなアートディレクションは、石岡瑛子の手による。その銃口は欧米を挑発するようでいて、西洋の真似事で喜んでいた多くの日本人に向けられている。日本が長年「西洋から学ぶ側」だった構図を反転させる叱咤激励だ。三宅一生や山本耀司が海を渡り始めた時期と近接した時代背景の中で生まれた。

 石岡の強烈な一撃は広告の枠も、国境も越えた問題提起だ。共感と分かりやすさ、数字で測れる価値ばかりが重視される現代において、このような広告表現は難しいだろう。 日本にも広告の世界にも留まらず、石岡はニューヨークに旅立つ。ブロードウェイの舞台美術やコッポラの映画衣装、ビョークのミュージックビデオ、オリンピックの式典まで手掛け、表現の幅をどこまでも広げる。 いずれの仕事でも共通していたのが、「流行は絶対に追わない」という姿勢だった。徹底したオリジナリティーへのこだわりは、見方を変えれば既成の価値観への粘り強い問い掛けだった。石岡は生涯をかけて、時代や社会に問いを発し、世界を挑発し続けた。(田尻秀幸)

石岡瑛子 I (アイ)デザイン
会 場:富山県美術館
会 期:~6月29日(日)
開場時間:9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週水曜日(4月30日は臨時開館)
観覧料:一般:1,500円(1,300円)、大学生:1,000円(800円)、
高校生以下無料。( )内は20名以上の団体料金
お問合せ:富山県美術館 TEL.076-431-2711