美術家のナカムラクニオさんは能登半島地震で壊れた器の修復をボランティアで請け負い、100点以上を再生してきた。現在、富山市問屋町のライフスタイルショップ「トトン」で展示販売会「NOTO Re-BIRTH PROJECT 能登再生工芸プロジェクト」(2月11日まで)を開催している。倒壊した家屋から救出した器を輪島の漆で再生した作品を店頭に並べている。売り上げは被災地での漆の苗木の植樹活動に充てる。ナカムラさんに漆を通じた復興と、被災地への思いを聞いた。(聞き手・田尻秀幸、撮影・竹田泰子)

——もともとテレビディレクターですよね。金継ぎを始められたきっかけは?

 『開運!なんでも鑑定団』の制作をやっていたんですよ。毎日のように焼きもの鑑定を間近で見ました。そうすると金継ぎの器で価値が高いものが多かった。そこで関心を持ったのが最初ですね。ある日、大切な器が壊れた時に思い立って自分でやってみたんですよ。

 ダメ元だったんですが、意外に上手にできた。当時の東京では金継ぎのワークショップが存在してなかった。骨董屋さんがひっそりとやっていた。誰も表立って活動していないなら何かにつながるかもなって思いました。

 職人さんや工房を取材するたびに質問を繰り返して独学で勉強しました。とにかくありとあらゆるところに行って、いろんな人のやり方を見たし、聞いたんです。僕がワークショップを始めた頃には、少し先に富山出身の堀道広さんがやっていたのかな。時代的に響き合うものがあったのかもしれません。

 金継ぎは結局僕のライフワークになりましたね。テレビを離れて、東京でブックカフェをやっている今も続いています。

——今回富山市のトトンで販売するのはどんなものですか? 

 被災地の倒壊した家屋から救出した茶碗を金継ぎしたものだったり、市場には出回らない珠洲焼のB級品に漆を塗って再生したものだったり。素材も地元のものにこだわっています。輪島の漆に珪藻土、金沢の金粉などを使っています。

 

 

 今回の売り上げは全部漆の苗木の購入に使おうと思っています。もちろん苗木は能登で買います。そうやって現地に還元したい。輸入した漆を使う作家も多いんですが、やはり日本産のものを使いたいという人だっています。輪島の漆は、中国産と違って乾燥が遅く、独特の味があります。これをもっと広めたい。

 

——今は東京と輪島を行き来されていますが、富山にも拠点を持ちたいそうですね。

 東京から輪島に直行するのはなかなか大変なんですが、富山は中継地点として最高なんです。東京から新幹線ですぐですし、輪島からも近い。食のレベルも圧倒的に高い。僕の活動を手伝いたいという人がいたら、宿泊場所にもなるでしょう。だから真剣に富山県内で物件を探しているんですよ。

 

 そうやって北陸に関わりたいという人の輪を広げていければと思っています。今はささやかな活動ですが、ミツバチが花粉を運ぶように、少しずつ広がっていけばいい。バタフライエフェクトを起こせれば。

1971年、東京都目黒区生まれ。美術番組や旅番組のディレクターを経て、2008年に東京・荻窪でブックカフェ「6次元」を開業。美術史の解説や金継ぎのワークショップを行う。著書に『チャートで読み解く美術史入門』『村上春樹語辞典』など多数。現在は東京と能登を行き来しながら、地震で被災した輪島の古民家のリノベーションと漆の植樹プロジェクトに取り組んでいる。