「人生ゲーム+令和版」をご存知でしょうか。始まりも終わりもない、ぐるぐる回り続ける盤面が特徴のボードゲームです。永久にSNSのフォロワーを増やすルールのゲームなのですが、現在は販売を停止しています。令和を代表するゲームのひとつではありますが、ゴールのない社会を生きると思うと、心理的安全性が保てなくなります。

 『令和元年の人生ゲーム』は、タワマン文学、と呼ばれる、令和から始まった文学のジャンルのひとつに含まれる小説です。ここでは、人間の格付けチェックが、毎日進んでいく、SNSが浸透しきったあとの社会のありようが、露悪的なほどに露見しています。

『令和元年の人生ゲーム』 麻布競馬場著(文藝春秋、1,650円)

 株の売り買いのように人間の上下をみる日常は、やがて、人間の精神を破壊していきます。ラストシーンは、人々の評価に散々、振り回された者の悲哀が、じんわりと滲んでいるものだと言うことができるでしょう。

 沼田という登場人物がいます。連作短編集であるこの小説の全編に登場する人物です。どの立場であっても、仕事に一定の距離感をとり、周囲の評判が悪くなるような悪態をつきながら仕事はテキトーにこなします。

 重要なのは、沼田以外の登場人物が仕事にのめりこんだ結果、バーンアウトに近い状態で、仕事を辞めてしまっていることです。沼田も一筋縄ではいかない性格の持ち主なのですが、やる気が無いことによって結果的に仕事を続けられてしまっています。仕事とはなにかと熟考させられます。

 個人的に気になった部分として、本書には、筆舌に尽くしがたい「いろいろ」があり、上京後に数年たって、実家の富山県に帰って再就職した登場人物が出てきます。実際に、富山県が故郷である私としては、いろいろと異を唱えたい部分があるのですが、ここからは、実際に最後まで読んだ富山県民の方と、ぜひとも、議論する機会を設けたいです。

あやと・ゆうき 1991年生まれ。南砺市出身。劇作家・演出家・キュイ主宰。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。