《偏愛はすべてに優る。どれくらい優るかというと、そのためなら世界が滅びたって構わないくらい優っている》
衝撃的な一節です。こちらはドストエフスキーの『地下室の手記』にある「オレが紅茶を飲むためなら、世界が破滅したってかまわない」という一文を巡って書かれたものです。《自己の原動力たる衝動の根っこには「究極的にはそれ以外の価値や意味なんてどうでもいい」という気分が隠れている》とも、著者は指摘しています。衝動はしばしば、他者が想像するものから大きくはみ出し、世界を揺るがします。今回紹介する新書では、仕事に絡むものも仕事に絡まないものも含めて、独自の衝動をみつけることの大切さを説きます。

大学生の時にキャリアデザインを考える授業を受けたことがあります。学生たちの発表する将来の道筋が、あまりにも似たり寄ったりであることにしびれをきらした先生は
「就活の面接じゃないんだよ」と諭しました。知らず知らずのうちに、人生のレールを外れることを、皆が恐れていたのです。
私は舞台関係の仕事を続けているのですが、新しい他者に出会い続けたい、という衝動が、はじめからありました。そこから逆算して、現在の人生を選んだと言えます。これは演劇が好きだから、舞台俳優になるのが夢だから、みたいな動機とは異なる、衝動を生かした、キャリアデザインと言えます。
あなたにも本書で言及される「自分ではもうコントロールしきれないくらいの情熱」があるでしょうか。もしあるとしたら、それを人生に生かすさまざまな方法が書かれている本書を、手に取ってみてはいかがでしょうか。どういうものであれ、衝動は押し殺さないほうが良いでしょう。あなたがみつけた衝動は、長く続く人生をきっと豊かにしてくれるはずです。