《今わかるのは、自分がかつて信じていたやり方は時代遅れになった、ということだけだ。どうすればいいんだろう。わからない。全部AIに決めてもらえばいいか》
本書の【ウェブ2.0と青春】と題した章を締めくくる文章です。はっきりとした、青春の終わりを感じさせる言葉です。著者のphaは、特にX(旧Twitter)で有名なインフルエンサーのひとりです。サラリーマンをやめてから、シェアハウスを運営してみたり、ほしいものリストを公開してみたり。様々な方法を駆使して楽しく生活出来ることを 証明するような活動をしていました。
しかし、そのような活動は終わりを迎えます。中年と呼ばれる年齢が迫るにつれて、何が起こるかわからない生活に耐えられなくなったのです。代わりに落ち着いた生活を欲します。

かつてはうまくいっていた日常のバランスが崩れてしまい、もう元には戻らない時代になりました。現代日本への辛辣で鋭い洞察には、納得させられる体験談が詰まっています。興味深いのは、本書で紹介しているSNSをフル活用した孤独にならな いための様々な方法を著者自身が息苦しく感じていることです。
孤独を引き受け、愛するための修行のようにも見えます。あとがきで、長年飼っていた猫との死別が語られるとき、本物の孤独とはどういうものか、著者が抱える強烈な虚無感に向き合わされます。
往々にしてシェアハウスでは、不定期にパーティーが催されるものです。私自身は一人暮らしの寂しさを噛みしめつつ、ひとりひとりの知り合いを大切にしながら、たまにはパーティーとは呼べないほどの小さな集まりを 催す。そんなささやかな現実を生きていきたいです。あたらしい時代に突入しても、人間の営みはそこまで変わらない。普通とはなにか、幸せとはなにか。考えさせられる一冊です。
あやと・ゆうき 1991年生まれ。南砺市出身。劇作家・演出家・キュイ主宰。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。