大河ドラマ『光る君へ』に夢中だ。史実とは異なるだろうが、世界最高峰の文学作品『源氏物語』誕生の裏側に、まひろ(紫式部)の情熱的な生き方や藤原道長とのロマンティックな結びつきなど、〝歴史のif〟があったとすると好奇心がうずいて仕方ない。高岡市万葉歴史館の企画展「万葉集と源氏物語」のギャラリートークを訪れたところ、副主幹研究員の田中夏陽子さんが紫式部の歌人としての力量や、源氏物語を深く読むための豆知識を教えてくれた。<注:ネタバレが含まれます>

高岡市万葉歴史館で開かれたギャラリートーク

人間の底知れない深い部分を描く

 突然だが、超有名な書き手2人の創作論を紹介する。誰かを想像して読んでほしい。

 1人目は県内で開かれた講演会での発言から。

 「東日本大震災によってニュースもバラエティーもドキュメンタリーもドラマも、曖昧な優しさとセンチメンタリズムに塗り込められ、本質から目をそらすものが多くなりました。(中略)わかりやすさばかりを重視し、一つの色に染まるのは危険です。

 既成の価値観を疑い、矛盾に満ちた人間を立体的に描きながら不条理さを忘れない。常識の向こう側の世界を探しながら、面白いドラマを作りたいです」

白黒はっきりしないのが人間(画像提供:PIXTA)

 2人目は、物語の一場面で稀代の貴公子である主人公に執筆の理由を語らせる。

 「誰それの身の上として、ありのままに書きしるすことはないにしても、よいことであれ悪いことであれ、この世を生きている人の有様の、見ているだけでは物足りないこと、聞いてそのまま聞き流しにはできないことを、後の世にも言い伝えさせたい、そんな事柄の一つ一つを、心につつみきれずに言いおいたのが物語の始まりなのです」

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