書評連載とはいえ、どのジャンルの本を取り上げるか指定されていないからこそ扱える、想像もしたことのなかった本を紹介しよう。なんと、掲載されている、すべてのレシピがガパオ。
ガパオと聞いて、自然とガパオライスを思い浮かべる方のほうが多いのではないだろうか。かくいう私もそうだった。ごはんに目玉焼き、少し癖のある味のひき肉炒め。好みでナンプラーを加える方もいるだろうか(あの唐辛子の入ったナンプラーはプリックナンプラーと呼ぶとのこと)。だからこの本を開いたときには驚いた。「無限ガパオ130種!」と表紙には記載されている。実際に130種のレシピを読み終え、茫然とした。

そもそもガパオというのはガパオの葉を使った料理のことで、あのひき肉炒めのことを指すわけではない、ということ自体、初耳だった。個人的に気になっているのは、著者である下関崇子の極私的ベスト・ガパオの5位にランクインしている、白子のガパオ。まさかの白子である。未だに調理出来ていないままだが「クリーミーな味わいがガパオ味とベストマッチ!」と断言されると、食欲をそそられる。今年食べた白子といえば、白子ポン酢ぐらいだ。知らず知らずのうちに固定化
していた自炊のレシピに、新たな風が吹く。
ガ巻き(う巻きの要領で卵焼きの中にガパオを入れたもの)にも心を惹かれたが、ちょうどいい卵焼き器が手元になかったので、私が試しにつくってみたのは炒り卵のガパオ。ひき肉は使わず、半熟気味の卵のみでつくる。「早い・うまい・安いの三拍子が揃ったガパオ」とのとおり、こんなにお手軽なら、毎日の、そこまで手のこんでいない、ちょっとしたランチのレシピの選択肢にも、きっと食い込んでくるはずだ。
著者の造語とのことだが、「ガパオロジー」(ガパオ学の意味)の章も興味深い。タイと日本でのガパオの認識がかなり違うことに困惑を禁じ得ない。タイにもし行くことがあったら、本場のガパオと、タイで広く受けいれられている、和食をぜひ食べてみたい。