薄々気づいていたが、私は誰かのことを、熱狂的に好きになりにくい人間なのだと思う。昔は違ったが、だんだんそのような人間に変化していった。市長選から中学校で生徒会長を選ぶ投票まで、大小関係なく、選挙のとき、入れたい人なんていないけど白票っていうのもなあ、と渋々票を投じたのは、一度や二度ではない。

 決断が早いと言われた過去がある。いいえ、ただ単に、私は諦めるのが早いんです、と声に出すのは、その後、めんどくさいことになりそうだったので、早々に諦めた。

『うどん陣営の受難』 津村記久子著 (U-NEXT、990円)

 物語の始まりはこうだ。4年ごとに会社の代表選挙がある社之杜社で、主人公の応援していた緑山さんが三位という結果に終わり、第二回投票に進む権利を失う。この時点で、その後のことは、一位の藍井戸の支持者と二位の黄島の支持者で勝手にやってくれ、と積極的に関わるやる気を失う展開だが、残念なことに、第二回選挙の結果は、入れる先のない緑山さんの支持者がどちらを選ぶかにかかっていることから、興味のない派閥争いに、やむを得ず巻き込まれることになる。

 うんざりするややこしい人間関係、仕事に支障をきたすレベルのドタバタ騒ぎ、どうしてそこまでして票がほしいのかとあ然とさせられる権謀術数の数々。醜悪、の一言で片付けたい泥沼化は、しかし、具体的に何を連想したかまでは言わないが、日本で実際に起きた、あのニュースやこのニュースを彷彿とさせる。もはや本題がなんだったのかをうっかり忘れてしまうようなお粗末な事態は、これからも繰り返される人間の愚かさでもある。

 いくらなんでもあまりにも無意味な出来事が発生しすぎた代表選挙も無事に終わり、落ち着いた日常が戻ってきて、読者はようやく、本来の平穏な日常を目撃する。

 残念ながら、きっとこのあとも、いつかどこかで、心からどうでもいい揉め事が起こるだろうけれど。

あやと・ゆうき 1991年生まれ。南砺市出身。劇作家・演出家・キュイ主宰。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。