錆は厄介なもの。そんなイメージは根強い。確かに建材の強度を奪うし、錆びたエンジンは使いものにならない。一方で意外な活躍を見せることもある。例えば、使い捨てカイロ。鉄は錆びる時に熱を発する。カイロの原材料は鉄粉が中心。それが酸素と結び付いた際、熱を発してポケットの中を温めてくれるのだ。しかし、気鋭のプロダクトデザイナーにもなると、錆の便利さには目もくれない。ただ美しさに視線を向ける。

撮影:柳原良平

 狩野佑真は2016年から錆をテーマに創作をしている。神奈川県の造船所近くにアトリエを構えていた時、路上に転がる鉄くずやシャッターの錆の模様に感銘を受けたことが一連のシリーズの端緒になったらしい。

 そして狩野は新たなマテリアルを生み出した。まずは鉄板や銅板を海水にひたしたり、雨ざらしにしたりして錆びさせる。鉄ならオレンジ色、銅であれば緑色。その錆をアクリル板に転写するのだ。金属板から切り離され、透明なアクリル樹脂に引っ越した錆は、光を通して新たな魅力を帯びる。そのアクリル板の組み合わせで作られた家具や壁は新鮮なのに、どこか懐かしい。真新しいはずなのに100年前から存在していたように見える。作り手の意図を越えた美しさが錆にはある。

 錆の付き具合はおおまかに調整できても、完全にはコントロールできないだろう。どんな色や模様を浮かべるか、自然や時間、季節と対話して折り合いを付けていくしかない。「Rust Harvest」というシリーズのタイトル通り、確かに何千年と人類が営んできた農業に近しい。

 狩野の作品に触れた後だと、海沿いの街に放置されたトタン屋根や自転車の錆も歴史を積み重ねた宝物のように映る。ちなみに会場では鉄板を海水につける狩野の様子が動画で紹介されているが、農業というより、魚介類の養殖のようだった。(田尻秀幸)

「デザインスコープ—のぞく ふしぎ きづく ふしぎ」 
会 場:富山県美術館 会 期:開催中〜3月5日(日) 休館日:毎週水曜日
観覧料:一般:1,100円(850円)、大学生:550円(420円)、高校生以下無料。
    ( )内は20名以上の団体料金
問い合わせ:富山県美術館 TEL.076-431-2711