ユーミンの愛称で親しまれる松任谷由実さんのデビュー50周年を記念し、作家・山内マリコさんが『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』(マガジンハウス)を刊行した。稀代のシンガーソングライターが誕生するまでの過程に目を向け、丹念な取材で小説として浮かび上がらせた。新著に込めた思いを聞いた。(聞き手・田尻秀幸、撮影・鳥飼祥惠)
 

—山内さんのユーミン歴を教えてください。

 初めてユーミンの曲を聴いたのは、映画「魔女の宅急便」でした。小学校3年生の時、同じクラスの女の子3人で映画館に行ったんです。親無しで映画館っていう大冒険だったので、その記憶がすごい強烈ですね。エンディングテーマ曲の「やさしさに包まれたなら」はクラシック的というか、「わー、何これきれい!」という感動を初めて味わいました。また聞きたくて、CDを買ったんですけど、オルゴール版のコンピレーションで、「これじゃない!」と思った記憶が(笑)。高学年になると背伸びしてラジオを聴いたり、アルバムを買ったり。ポップ・ミュージックを聴くようになる入り口にいたのがユーミンでした。

—どういう経緯で、この本を書くことに?

 ユーミンのデビュー50周年ということで、出版社から依頼を受けました。ユーミンも私の小説を読んでくれて、ゴーサインが出たようです。

 テーマやお題をもらって書くのは珍しいので新鮮でしたね。受けるかどうか、最初は迷ったんですよ。でも、考えているうちに「これは私がやる仕事だ」と思いました。ユーミンは、東京出身だけども、八王子っていう絶妙に都心から遠い街で生まれ育った。だから1時間ぐらいかけて、毎日のように「小さな上京」をしていた。それを意識すると、今まで自分が書いてきた地方出身者的な視点、何かになりたがっていたり、もがいていたりする女の子の視点で、ユーミンを書ける気がしました。

—フェミニズムの視点でもユーミンを捉えていますよね。「女が作曲できるの?ギター弾けるの?」と当たり前のように言われている場面がありました。

 ユーミンが10代の頃は今の感覚では信じられないくらい、女の子は何もできないと思われていた時代だったみたいです。基本的には男が演奏して、女がキャーキャー言って追いかけるという図式。女性ファンにキャーキャー言われる女性アーティストになったところも、ユーミンの新しさですよね。女性スターとして50年間ずっと君臨することで、日本の女性に与えた影響は、音楽業界にとどまらず計り知れないと思います。

 

—音楽の描写が丁寧ですね。

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