やるからには頂点を
―高校時代に力を付けた朝乃山関は、強豪・近畿大へ進みました。4年生で国体成年の部4位、全日本相撲選手権ベスト4の実績を残し、高砂部屋へ入門。大学時代の活躍をどのように見ていましたか。

父・靖 大学トップクラスの相撲部でレギュラーをつかみ、全国大会でも上位の成績を残していたので、ぜひ、プロの世界で活躍してほしいと考えていました。大相撲界は厳しく、実働年数も短く、どれだけ飯を食べていけるか分からない世界。普通の安定した仕事をしてほしいと思う親御さんもおられると思いますが、私は、やるからには頂点を目指してほしいと願っていました。
母・佳美 入学当初は、まさかプロの世界まで行くとは思わず、4年後は富山に帰ってくるのだろうと思っていました。それが、学年を重ねるごとに強くなっていき、スカウトの方々からも「まだまだ伸びしろがあるから、プロでもやれる」と評価をいただけるようになりました。大学4年生になって、同級生が就職活動を本格的に進めている中でも、広暉は相撲の大会に出場していて「卒業後はどうするんだろう?」と心配していましたが、本人の頭の中にはプロという意識があったのでしょう。最終的にはスポーツ紙の記事で、本人が「プロ志望」であることを知りました。これも自身で決めたことですので、応援してやろうと思いました。


―年6回の本場所には、富山から車で会場に足を運び、観戦を楽しんでおられますね。
父・靖 はい。東京場所なら初日、中日、千秋楽と3週連続で両国国技館へ行きます。大阪、名古屋、福岡での本場所は、回数が減りますが、必ず会場へ行きます。会場へ行けない日の取組はテレビで観戦し、取組後には欠かさず、「LINE(ライン)」でメッセージを送ります。広暉からの返事は簡単な短文で、勝った日は「また次も頑張ります」、負けた日は「明日は気持ちを切り替えて頑張ります」といった程度。メッセージを送る私のほうが、ネタが尽きてきて「いつかは止めるから」と言いながら、ずっと続けています。
母・佳美 プロの世界は、本人の努力次第で結果は良くも悪くもなります。もう親としては何もできず、ただ声援を送るだけです。ただ、子どもの母親になれて良かったなと思いますし、「子どもは、いつになっても子ども」と実感することもあります。
―親子の仲が良いのですね。男3兄弟ということで苦労したこともあるのでは。
父・靖 大きな親子げんかはしたことがありません。広暉からすれば5歳上の兄と、3歳下の弟がいますが、兄弟の仲も良かったです。ただ、広暉の中学・高校時代には私の仕事が忙しく、なかなか相撲を見に行く時間が取れませんでした。後になって、「昔は俺の相撲に興味なかったんでしょう?」と言われたことがあります。きっとさみしい思いをさせたのでしょう。今は父親として、可能な限り関わってやることが大事かなと思っています。
母・佳美 兄弟でも、1人ずつ全然違います。広暉は、感情を全て出してくるタイプで、自身の欲求は何でも言ってきました。上の子はしっかり者のお兄ちゃんタイプ。下の子は次男の広暉に押されて、何でも我慢するタイプでした。なので広暉優先で家族の一日が回る感じになり、弟は言いたいことがたくさんあったみたいです。ただ、現在は、「(力士になった)兄ちゃん、すごい」と尊敬しています。
父・靖 兄と弟は、広暉について「一つの目標に向かっていけるのはすごいし、うらやましい」と言っています。その半面、広暉も「兄や弟は自分にないものを持っている」と言います。思春期には、それぞれ会話が少なくなった時期もありましたが、結局のところ、兄弟というのはお互いをしっかり見ていて、大人になれば尊敬しあえる関係になっていくのだと思います。
大変なことも含め 子どもに関われることは幸せ
―部活をやっているお子さんの親は、様々なサポートをしています。相撲部に所属していた朝乃山関のサポートも大変だったのでは。
母・佳美 当時は専業主婦だったので、車での送り迎えや弁当作り、週末の試合の応援など関わる時間は長かったです。大変なこともありましたが、子どもと触れ合えるのが嬉しく、楽しい思い出になっています。広暉の弁当は大きかったですよ。二段になった弁当箱で、一段目にご飯、二段目におかず。毎日、何を入れようか考えながら、チャーハン、オムライス、焼きそばなど炭水化物ばかりになった日もありました。朝練習もあったので、お昼休みになる前に、お弁当を食べてしまっていたようですが。
―大相撲力士として社会人となった朝乃山関。子離れを感じた瞬間はありましたか。
母・佳美 大学に入学した時、素直に「やっと送り出せてやれた」という気持ちになりました。中学・高校と目一杯関わってきたので、さみしいというよりは「たくさんのことをやってあげられて良かった」という満足感が湧いてきました。面倒なことでも、子どものためなら一生懸命にできるものです。子育て中のパパ・ママは大変なことばかりだと思いますが、一生懸命にやってあげられること自体が幸せなことだと思います。
―朝乃山関にエールを!
父・靖 相撲人生を、完全燃焼できるように頑張ってほしいです。大きなけががなければ、さらに上の番付を狙えると思うので、応援してくださる皆さんの期待に応える活躍を見せてほしいです。高校時代の恩師・浦山英樹先生(故人)の「富山のスターになれ」という言葉のように、頂点を極めていってほしいです。
