新年が近づき、ものが増え続ける家の中をどうにかしたい人も多いだろう。日々の生活を動画で紹介し、YouTubeのチャンネル登録者数が11万人を超える深尾双葉さん(高岡市出身)は、収納テクニックより先に「本当に美しいと思うものだけを残す」という基準を置く。深尾さんは能登半島地震を機にものを減らし、買い物や料理、発信の姿勢まで変わったという。(田尻秀幸)
金沢の静かな住宅街にあるマンションの一室。リビングの壁際の食器棚には、ほどよく余白を残すようにグラスや皿が整然と並ぶ。フランスからやってきたというアンティークの机には、傷がいくつも付いているが、それがかえって味わい深い。ここが深尾さんの自宅だ。
ものを売ることに疲れ
「元々は器を集めるのがすごく好き。だから部屋中がものであふれていたんです」。そう語る深尾さん宅の室内はすっきりしている。茶室のような趣きがあり、選び抜かれたものだけがある。家の中にある食器や家具は古道具がほとんどで、何十年も百年も前のものばかり。それらを大切に手入れしながら使っている。

深尾さんは東京の雑貨店で働いた後、2010年頃に金沢で自身の雑貨店とアンティーク器の店を開業した。
「学生時代からものに囲まれた生活をしてきた。お店をやっていたこともあって、本当に家が雑然としていました。壁という壁、全部棚で埋まっているような状態で」

しかし、ものを売ることへの疲れが募っていった。「お店では好きなものを大切に集めているのに、売らないといけない。経営を思えば、お客さんの顔を想像して、売れそうなものばかり仕入れるようになっていた。それは何か違うと思ったんです」。深尾さんは8年間続けた店を、思い切って畳んだ。次の身の振り方など後回しだった。
カメラが映す「見栄を張らない暮らし」
その後しばらくして、YouTubeで発信を始めた。きっかけはアジア圏の人たちの暮らしぶりを紹介する動画を見たことだった。何気ない日常に流れるゆったりとした時間が魅力的だった。機械が苦手だったが、ネットを駆使して動画制作を学び、日々の暮らしを発信し始めた。
自身のYouTubeチャンネル「futaba」で見せたのは、和と洋のヴィンテージ道具がセンスよく配置された空間で生まれる丁寧な生活だった。お気に入りの食器だったり、モーニングルーティンだったり。スタイリッシュではあるけれど、見栄を張らない暮らしぶりが多くの人に好感を持たれ、100万回再生されたものもある。

月に多い時には6本、最近は2、3本のペースで投稿を続けている。「6年半、この家を撮り続けていて。同じ室内をずっと撮り続けるって、我ながらよくやっているなと思ってます」と笑う。基本的に自宅での撮影が中心で、外に出る企画はほとんど作らない。
YouTubeの収益について聞くと、深尾さんは率直に答える。「コロナ前は広告費がすごく高かったんですけど、コロナ後はみんなYouTubeを始めた一方で、広告を出す人が減っちゃった。YouTuber同士で広告費の取り合いみたいになった。だから、そのまま収益はずっと低いままなんです」と潔く話す。
能登半島地震がもたらした転機
深尾さんの動画の内容が大きく変わったのは、2024年元日の能登半島地震だった。大切にしていたつぼや鏡が壊れ、棚からものが落ちた。散らかった部屋を見ながら、家や命を失った人のことを思った。「心にぽっかり穴が開いたというか。被災された方のことを思うと、ものが壊れたことなんて全然大したことないなって」。たくさん集めることよりも、大切なものを守っていくことの方が大事だと思うようになった。
始めたのは「捨て活」だ。