今年5月、愛知県警が名古屋市で開いた自動車盗難対策の実演会で、熱心に耳を傾ける50代の男性がいた。聞けば過去に2度、愛車のランドクルーザーを狙われたという。

 1回目は2011年春。朝起きると駐車場から消えていた。その後、別のランドクルーザーを買い直した。

 2回目は2015年夏、妻が夜中に外出しようとしたときのことだ。玄関の前に、あるはずのない自転車が置かれていた。開けるのに邪魔で、なかなか外に出られない。その隙に犯人は逃げたとみられる。車が盗まれることはなかったが、車体には四角い穴が開けられていた。内部の配線は焼かれ、修理に10万円以上かかった。

 大金をはたいて購入し大切に整備してきた愛車が狙われる、そんなリスクが全国で高まっている。車だけではなく、安心できるはずの家も侵入・窃盗のターゲットになっている。鉢合わせした犯人に、危害を加えられるリスクもはらむ。大切な人や財産を守るためにはどうしたらいいのか。自動車盗や侵入盗の被害者に話を聞いた。(共同通信=渡辺敦、広部日菜)

 ▽捜査は困難、「自動車盗は高リターンの犯罪だ」

 自動車盗の被害は深刻化している。警察庁の統計によると、今年1~6月の認知件数(暫定値)は、昨年の同じ時期と比べて1・3倍の3821件となった。

 トヨタ自動車のお膝元・愛知がワーストの639件(前年同期の1・5倍)で、埼玉479件(1・1倍)、神奈川396件(1・7倍)と続く。ホンダの発祥地・静岡は165件だが6・6倍に、長野は63件で2・9倍になるなど、大幅に増加した県もある。

 組織的な犯行が多く、狙う車の物色、窃取、解体、売却など分業化されている。さらに、犯行グループは自動車メーカーのセキュリティーを研究し、手口は巧妙化している。現在は車の制御システムに侵入し、解錠やエンジン始動を行う装置「CANインベーダー」を使い、たった数分で盗むこともある。

 盗まれた車はその後どうなるのか。

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