太平洋戦争末期の広島・呉を舞台に、主人公すずの日常を描いた映画「この世界の片隅に」。2016年の公開後、数々の賞に輝き、戦争を伝えるアニメの金字塔となった同作は、この夏も全国各地で再上映された。片渕須直監督は、世界で戦争が広がる今こそ「すずさんたちは、なぜあんな戦争の中にいてしまったのか。作品で描いたことや、すずさんの行動を、改めて見つめ直してほしい」と訴える。(聞き手 共同通信=橋本亮)
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▽自分たちと一緒
前々から、戦時中の人々が質素な生活を我慢する胸の内を理解するのが難しかった。前後の時代と「断層」がある気がしていました。そんな中、こうの史代さんの原作漫画は、戦時の語られ方が他と全然違っていたんです。自分も一から調べ、考えたいと思いました。
もんぺが普及しないのは「格好が悪いから」と書かれた当時の資料を見つけました。その途端「自分たちと一緒なんだ」と理解できて、すずさんたちと時代の空気を共有する意識で描きました。映画を見た90代の女性から「私たちはああいう中を生きていたんです」と伝えられて、戦時中の人々を理解する「土台」ができたと感じました。
▽戦時中の「正しさ」
ただ、すずさんを「前向き」とする感想が多いことには納得がいかないところがありました。
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