野球の本場アメリカで、「ファンファースト(ファン最優先)」を旗印に掲げるチーム「サバンナ・バナナズ」が一大旋風を巻き起こしている。打って投げて走るだけじゃなく、歌って踊って宙に舞うユニークなプレースタイルで、エンターテインメント性を重視。チケットは発足当初から全試合完売で、メジャーリーグの人気球団ドジャースやヤンキースの試合よりも入手が困難だ。交流サイト(SNS)での存在感も際立ち、TikTok(ティックトック)のフォロワー数は今や1千万人超。「スポーツ界最高のショー」とも称され、野球に関心が薄かった層からも大きな支持を集めている。(共同通信ロサンゼルス支局=益吉数正)

 ▽開門前から大忙し

 チームがあるのは南部ジョージア州の港町サバンナ。観光地としても人気の高い古都だ。「バズっている」理由を実際に目で確かめようと、原点の本拠地球場を訪れた。

 配車アプリで車を呼ぶと、地元出身という女性運転手が「試合を見に行くの? 素晴らしいショーよ」と教えてくれた。かつて「野球の神様」ベーブ・ルースもプレーしたことがある歴史ある球場「ヒストリック・グレイソン・スタジアム」に着いたのは、試合開始の2時間余り前。5千人収容の小さい球場とはいえ、周辺は既に身動きが取りづらいほど大勢のファンでごった返していた。

 試合前からファンサービスは徹底している。選手やスタッフは球場の開門前から大忙し。設置されたステージにはチームのダンサーだけでなく、この日の対戦相手パーティー・アニマルズの選手も上がって音楽に合わせて踊り、ファンと一緒に盛り上がっていた。バナナズの選手はチームカラーの黄色のユニホーム姿で、開門に合わせてファンとハイタッチをしながら登場。老若男女の求めに応じ、丁寧にサインを書いて笑顔で一緒に写真に納まり、まるで友達のようにフランクに会話を楽しんでいた。

 ▽独自ルール

 いざ試合が始まると、普通の野球とひと味違うのは一目瞭然だ。プレーしているのは独自の11のルールを導入した「バナナボール」。野球は試合時間の長さや間延びした展開がファン離れの一因になっているとされ、オーナーのジェシー・コールさんが「ファンにとって退屈な部分を全て取り除く」と考案した。

 テンポの速さを重視しており、試合は2時間制。バントや打者が打席を外すのは禁止され、ファンがファウルを捕れば、打者はアウトになる。英語で「WALK」と言う四球を選ぶと、野手全員で行うボール回しが終了するまでは進塁できるため「歩く」ことは許されず、一つでも先の塁を目指して打者はダッシュする。審判の判定に異議を申し立てる「チャレンジ」をファンも求めることが可能で、観客を飽きさせない工夫を凝らしている。

 ▽個性あふれる選手

 このユニークな野球に、個性あふれる選手が花を添えている。

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