厳しい暑さの中で実施された、7月の参院選。松山市の50代男性会社員は、参政党新人の街頭演説を聞きながら、投票先を迷っていた。「これまではお願いされて自民党候補に入れていたけれど、今は自民に入れるときではない、というSNSも見かけた」という。後日聞くと、1票を投じた先は参政党の候補だった。決め手を聞くとこんな答えが返ってきた。「『日本人ファースト』がいいなと思った。外国人に何かされたわけではないけれど、京都の知人から『中国人が多くて大変、むちゃくちゃだ』と聞いた。ユーチューブで目にする機会も多かった」
大阪市の50代女性会社員は、最初は参政党がいいと思っていたと話す。各種のニュースサイトやネット上の比較表を見たり、人工知能(AI)に「どの政党と考え方が合っているか」を聞いたりもした。参政について調べているうちに「これは危険かもしれない」と思い、大阪選挙区での投票先は日本維新の会の候補にした。
候補者選びに悩んだ有権者の背中を何が押したのか。街頭で取材に当たった記者が一人一人の心の動きに迫ると、「SNS選挙」が着実に浸透している様子が浮かび上がってきた。(共同通信=山崎祥奈)
▽共感にも不信にもつながったSNS
候補者や党首らの街頭演説で共同通信記者が聴衆に声をかけると、支持政党の有無にかかわらず、少なからぬ人が投票行動に迷いを抱えていた。多かったのは自民党への不満だ。「これまでは自民を応援してきたけれど、最近見劣りする」(80代男性)、「自民全体に慢心を感じる」(30代男性)、「自民、公明両党連立政権を終わらせなければならない」(20代男性)…。自民を元々支持していた人たちが、新たな投票先を探す動きが垣間見えた。連絡先を交換できた人に投票後改めて接触し、「誰に入れたか」や「何が決め手になったか」を尋ねた。匿名で約30人の回答が得られた。
参政党新人に投票した松山市の50代男性のように、SNSで触れる中で参政に共感した、という人は少なくない。兵庫県高砂市の20代男子大学生は、3年前の参院選から参政党を支持していると答えた。きっかけはTikTok(ティックトック)。今回も参政の候補を選んだ。決め手は外国人問題だったと明かした。「このままでは日本がなくなる。外国人にはもっと厳しい姿勢で臨んでほしい」
参政党の神谷宗幣代表が応援演説に訪れる先では、熱狂的な聴衆が駅前や広場を埋める様子が何度となく見られた。その一方、SNSを通じて党への不信を募らせたという有権者もいた。
参政を含む複数の野党を視野に入れていた大阪府吹田市の20代男性会社員は、ユーチューブとテレビで情報収集するうちに、神谷氏が信用できなくなったという。大阪選挙区では日本維新の会の新人、佐々木理江氏に1票を投じた。ティックトックで参政党が流れてきて関心を持った、という広島市の飲食店経営の30代男性は、参政党候補の街頭演説を見かけて足を止めた。ところが、その後SNSで調べる中でこう思ったのだという。「いろいろな意見があり、怪しい政党だ」。その反面、他の候補者にも魅力を感じられず、投票には行かなかった。