選択的夫婦別姓の反対派が理由の一つに挙げるのが「親子で姓が異なれば、子どもに悪影響を与えてしまう」との考え方だ。家族の一体感が失われてばらばらになり、子どもが寂しさや不安を抱く―。夫婦別姓導入の是非を巡る論点として、たびたび指摘されてきた。

 家族心理学の専門家はどう見ているのか。40年以上にわたり現場で親子や夫婦のカウンセリングにも取り組んできた、文教大の布柴靖枝教授に学術的見解を聞いた。(共同通信=荒井英明)

別姓が理由で、子どもの心理に悪影響はない

 ―選択的夫婦別姓を導入した場合、別姓を選んだ夫婦の子どもは親子で姓が異なることになります。懸念はありますか。

 「結論から言えば、親子やきょうだいで姓が異なることだけが理由で、子どもの精神的安定や自己肯定感といった心理に悪影響を与えることはありません」

 ―なぜでしょうか。

 「別氏(べつうじ)制度が先行している海外で、悪影響があるとの報告事例は聞いていません。夫婦同氏を法律で強制している国は日本のみです。夫婦別姓は世界各国ですでに認められています。導入した海外では、別姓であっても家族愛や夫婦愛は何ら変わることはなく、ましてや家族の帰属意識を失う、子どもの精神的自立を妨げるといった報告も聞いたことがありません」

 「ちなみに海外では、すでに別姓だった国を除き、1979年に国連で女子差別撤廃条約が採択された以降、1980年代後半から夫婦別姓にかじを切るところが多く出てきました。2000年代に加速化し、今や、別姓を認めない国は日本のみになりました」

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