スーパーに足を踏み入れる。ふわっと漂う、柔らかに甘い魅惑的な香り。その元へと吸い寄せられ、気付けば焼き芋を握っている―。
今や全国各地のスーパーでおなじみの焼き芋販売。発案者の1人が、茨城県行方(なめがた)市のJAなめがたしおさい代表理事専務、金田富夫さん(65)だ。
金田さんは言う。「失敗の連続。焼き芋で日本一を目指すというチャレンジ精神で、ここまでやってきました」(共同通信=城下理彩子)
▽形は悪い。市場評価も三流。それでも確信していた「味が良い」
行方市は1年を通して温暖だ。霞ケ浦と北浦という二つの湖に挟まれ、緩やかに傾斜した土壌は水はけが良い。サツマイモ栽培に適した環境だ。
1965年から食用のサツマイモ栽培を始めた。しかし、元々葉タバコ生産が盛んな地。サツマイモはその裏作という認識で、農家は本気ではなかった。
高く売れている他産地に比べ、行方のサツマイモは形が悪かった。金田さんによると「市場評価は三流」。各地のスーパーを回ると、行方のサツマイモは外に置かれていることもあった。それでも、金田さんは確信していた。「行方のは、味が良い」
▽シンプルに味を引き出す「焼き芋戦略」
なぜ味が良いのか。2001年ごろから、茨城県の研究機関や農家と徹底的に調べ、分かった。
残り2578文字(全文:3120文字)