テレビ番組をインターネットで無料配信する「TVer(ティーバー)」。設立から10年目に入り、月間の利用者数は約4千万に達した。在京キー局が中心になってサービスを拡大してきたが、今後どこへ向かうのか。フジテレビ出身の若生伸子(わこう・のぶこ)社長にインタビューした。(共同通信編集委員・原真)
▽目的型から滞留型へ
「ドラマの見逃し配信や違法動画対策として始まったんですが、バラエティーやアニメを増やし、2022年に民放5系列による夜の番組の同時配信も出そろいました。2024年10月からは、24時間ニュースも配信しています」。若生さんは、TVerの進化を説明する。
TVerがスタートしたのは2015年10月。同じ年には、米有料動画配信の「ネットフリックス」と「アマゾンプライムビデオ」が日本に上陸し、サイバーエージェントとテレビ朝日が「AbemaTV(現ABEMA)」を設立した(サービス開始は2016年)。米無料動画配信の「ユーチューブ」などは既に存在していたが、有力事業者が次々参入した15年は「動画配信元年」と呼ばれる。
折から、若年層のテレビ離れが進みつつあった。ネットには、テレビ番組が勝手にアップロードされる。また、ハードディスク・ビデオ・レコーダーの普及で、CMを飛ばしながら見る人が増えていた。テレビよりスマートフォンに親しむ若者らに、正規の動画をCM付きで提供し、違法動画を駆逐するため、在京5キー局などが共同で立ち上げた動画配信プラットフォームがTVerだ。「いつでも、どこでも、どんなデバイス(端末)でも、好きな番組を見ていただける」と若生さんは強調する。
当初は、主にドラマが視聴され、女性の利用が多かった。同時配信で、五輪をはじめスポーツが生中継されるようになると、男性の利用が増え、現在はほぼ男女半々に。月間利用者数(MUB)は2025年1月に4120万、再生数は2024年12月に4億9600万回に達している。利用者のうち15~34歳が計36%を占め、スマートフォンでの視聴が54%に上る。
若生さんは言う。「テレビ離れを指摘される若年層が、TVerを介してバラエティーなどに触れています。スポーツを帰宅途中や仕事の合間に見る人も多い。『このドラマを見たい』といった“目的型”から、朝起きてから夜寝るまで何となくスマホでTVerを見る“滞留型”に変わってきている。TVerが生活の一部になりつつあります」
2024年、同時配信で一番再生数が多かったのは、1月の能登半島地震のニュースだった。