富山県南砺市北川の道の駅井波にある長崎原爆で犠牲となった少女をしのぶ「嘉代子(かよこ)桜」が開花した。同県出身の井波彫刻師、音琴冰春(ねごとすいしゅん)さん(65)=砺波市=が地元の知人から苗木を譲り受け、工房を構える同駅に3年前に植樹した。今年は原爆投下や終戦から80年の節目を迎え、音琴さんは「核戦争がいつ起きてもおかしくない時代。桜を通じ平和への願いを伝え続けたい」と話している。
嘉代子桜は、動員先の兵器工場があった長崎市の旧城山国民学校(現城山小学校)で原爆被害に遭い、15歳で命を落とした林嘉代子さんにちなんで名付けられた。戦後、嘉代子さんの母が、娘が好きだったソメイヨシノの苗木50本を同校に寄贈。現在も校庭に6本が残り、地域住民が大切に育てる。同校の原爆殉難者慰霊会は平和の尊さを広めようと、接ぎ木して育てた苗木を全国各地に寄贈している。
音琴さんは高校卒業後に富山に移住し、彫刻の世界に入った。2013年から核廃絶や平和を訴える作品の制作を続ける。22年に同慰霊会の関係者から苗木1本を譲り受け、道の駅井波に植樹。翌23年につぼみが3個ほど開花した。
戦後80年の今年。嘉代子桜は9日までに20個ほどの淡いピンク色の花を咲かせている。
音琴さんは今も被爆2世の同級生や親族が長崎に暮らしており、非核への強い思いを募らせる中、富山と長崎では平和に対する温度差を感じることもあるという。「嘉代子桜を眺めながら、戦争を起こさないために一人一人が何をすべきか考えてほしい」と訴えた。
